コンパクトミニバンモデルの「プレマシー」は3代目が一番いい
マツダの乗用ミニバンとして、よりコンパクトなボディサイズを持つのがプレマシー。5ナンバーサイズだった初代は1999年にデビュー。
リヤヒンジ式ドア、全高1570~1590mmの低全高ボディに2/3列シートの5/7人乗りを用意。駆動方式はFFと4WDを揃えていた。パワーユニットは1.8リッター直4、2リッター直4の2種類で、ミッションはいずれも4速ATが組み合わされていた。
2005年登場の2代目プレマシーはプレマシーとして初のリヤスライドドアを採用。6+ONEパッケージ&カラクリ7thシートを新採用したのもニュースだった。
ボディサイズはフォードグループのプラットフォームを使う都合もあって全長4555×全幅1745×全高1615mmの3ナンバーに拡大されている。エンジンは2リッター直4、2.3リッター直4を用意。ミッションは4/5速ATを組み合わせる。サスペンションはFストラット、Rマルチリンクで、走りに振ったマツダらしい走行性能が魅力であった。
もっとも、走る歓びを追求したZOOM-ZOOMコンセプト立ち上げ直後の新型車ゆえ、ファミリー層狙いのミニバンにして「キビキビしすぎた」走りのキャラになっていたのもまた事実だった。
当時の筆者の試乗記(試乗メモ)を読み返すと「走り出しからアクセルレスポンス鋭く前後にギクシャク。ステアリングを切れば瞬時に軽快な回頭性を示す代わりに想定外の強い横Gがいきなり発生したりして車体はグラリ……。運転の仕方によって同乗者は山道でなくとも終始、体が揺すられ、クルマ酔いしやすいかったのだ」と記している。
個人的に最上のプレマシーと呼びたいのが、2010年デビューの3代目。現在のマツダデザインの源流ともいえるNAGAREデザインを本格採用した車種であり、全長4585×全幅1750×全高1615mmの大きすぎないボディはCd値0.3という優れた空力性能のもち主。
リヤスライドドアであることはもちろん、3代目プレマシー開発責任者の松岡英樹氏は先代プレマシーのユーザーなのだが「自分の子どもを乗せるとすぐに酔ってしまう。新型の開発にあたって、それを何とかしたかった」なんて告白してくれたぐらいで、走りの進化(快適性)、ミニバンに適するチューニングの進化も著しい新型だったのだ。
とくに筆者の印象に残っているのは、シートの欧州車に匹敵するかけ心地のよさ、先代のキビキビしすぎるクルマの動きを押さえた安定感と快適感に満ちた操縦性と当時のミニバンクラス最上の、ホンダ・ストリームを凌ぐ乗り心地、そして80km/hを超えたあたりから変貌する、欧州車風味の硬く引き締まったスポーティな乗り味、直進性のよさなどだ。
なにしろドイツのアウトバーンで鍛えられて開発されたのが3代目プレマシーなのである。もっといえば、運転初心者でも運転がうまくなったと感じられる操縦安定性、運転好きなら思わず頬がゆるむスポーティな走りに満足必至なのである。3代目プレマシーは、マツダの目指す走りを最大限に詰め込んだ、最後のミニバンといえるのである。
マツダのミニバンには、そのほかオートフリートップもあったボンゴフレンディ、ビアンテもあったが、ここでは文字数の制限もあり、割愛させていただきたい。
最後に、なぜいま、マツダにミニバンがないのか? という点だが、ひとつはマツダのデザインコンセプト「魂動デザイン」を箱型のミニバンボディで再現するのが難しいことが挙げられる。そしてSKYACTIV技術を核に走りを追求するマツダにとって、走りのダイレクト感をミニバンに求めるのはかなり難しい。それに加え、近年のマツダ車は国内、北米市場などで売れ筋のSUVをメインに開発が行われ、CX-8、CX-80でかなり実用的な3列シートモデルをラインアップすることで、多人数乗用車というカテゴリーをカバーできている事実も、早期にミニバンから手を引いた理由といっていいだろう。