ホンダらしさが薄れてしまった2代目NSX
一方、2代目NSXのルーツとなる「NSXコンセプト」が登場したのは2012年のこと。ミシガン州デトロイトにて行われた、北米国際自動車ショーにおいて世界初披露された。ホンダはそれまでにも「HSC」や「HSV-010」といったスーパースポーツを開発しコンセプトモデルを発表していたが、いずれも公式にNSX後継を名乗ったことはなく、それだけにこのモデルには大きな期待が寄せられた。
このNSXコンセプトを世界初公開する場所として、ミシガン州デトロイトが選ばれたことにはもちろん理由があった。2代目NSXはメインマーケットを北米市場と想定していることは初代と同じだが、車両の開発や生産をアメリカ国内で行うことも併せて発表された。筆者は、このNSXコンセプトが初披露された瞬間を現地で取材していたのだが、当時の伊東孝紳社長が北米での開発や生産をコメントした瞬間に大きな拍手と歓声が起こったことを覚えている。
当時、現場にいたのはアメリカ現地のメディアがほとんど。ホンダのフラッグシップであるNSXの車名を冠したクルマがアメリカに軸足を置いて開発され生産を行うということは、それほど現地の人々にとっても誇らしいことであるのだと感じた。
そんな2代目NSXだが、コンセプトモデルから市販化までは幾度もの紆余曲折を繰り返した。当初は初代と同じくV型6気筒を横置きするレイアウトを採用していたが、やがてエンジンは縦置きへと変更されツインターボ化、左右の前輪にひとつずつモーターを配置し、さらにミッドシップマウントされたエンジンにもひとつと、前後で合計3つのモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用。トランスミッションはデュアルクラッチ式となり、駆動方式は前後左右の駆動力を電子制御により自在に振り分けるSH-AWDのみとされた。
ホンダのもてる新世代技術をすべて詰め込んだ見本市のようなクルマとなった2代目NSXは、世界中の自動車メーカーが環境問題への対応を迫られるなか、新世代スーパースポーツとして目指すべき姿を提示した。誰にでもスーパースポーツの世界を楽しめるという敷居の低さ、デイリーユースからサーキット走行までを可能にする多様性、高い信頼性といった特徴は初代NSXから受け継いだ。低速域や近距離ではCO2を発生させるエンジンの力を頼ることなく、モーターだけで走行することも可能な先進性や優れた燃費は、ともすれば社会悪と見られがちなスーパースポーツに新しい価値を示した。
そんな崇高な志や優れたメカニズムを満載した代償として、新型NSXの車両価格は上昇した。北米市場では15万6000ドルから20万5700ドル。日本市場では2017年からデリバリーが開始され、車両価格は2370万円とされた。
その後、2019年5月にマイナーチェンジを実施。2021年にはNSXタイプSを発表。車名からするとバリエーション追加のように思えるが、代わりに標準モデルがラインアップから姿を消すという事実上のビッグマイナーチェンジで、前後バンパーをはじめエクステリアには大きな形状変更が加えられた。運動性能でもエンジン本体やタービン、冷却系など補機類のほとんどに手が加えられたことにより、システム最高出力610馬力(従来は581馬力)、システム最大トルク667Nm(同646Nm)にまで性能を向上。しかし、NSXタイプSは世界全体で350台の限定生産、日本市場への導入は30台のみとされた。
2代目NSXの日本国内における登録台数は、2017〜2020年の4年間で464台。2021年モデルはNSXタイプSの30台のみであり、これ以外に「販売はされたものの登録されていない」というコレクター車両を加えても、500台前後というところ。約15年間にわたって販売された初代NSXと比べると、その違いは明らかだ。
短命に終わった最大の理由は、やはり車両価格にあるだろう。前述のように最新技術を詰め込んだ反面、約2400万円からという価格はあまりにも高すぎた。F1で最強の名をほしいままにしたホンダは、軽自動車やミニバンを開発・販売している大衆車メーカー。いわば「私たちのホンダ」が圧倒したから多くの支持を集めたのであって、富裕層のみを顧客とするような価格設定はホンダらしくないと判断されてしまった。
また、初代NSXを伝説的な存在へと押し上げた、NSX-Rのようなストイックモデルが設定されなかったことも、2代目NSXはリアルスポーツよりも快適性を重視したグランドツアラー色の強いモデルであり、ホンダらしさに欠けると評される要因となってしまった。
しかし2025年現在、NSXは初代&2代目ともに高い人気を誇っており、中古車市場では新車価格を超えるプライスボードを掲げている個体がほとんど。2代目NSXについては2017年モデルがほとんどで、最終進化系であるタイプSはもちろん、駆動制御などに変更を受け走りが大きく進化した2019年モデルも超希少車種となっている。
思えば、初代NSXもその評価が高まったのは生産終了後しばらくが経過してのことだった。ハイブリッドシステムを搭載した新世代スーパースポーツである2代目NSXも、その先進性が正しく評価されるにはもうしばらくの時間が必要なのかもしれない。