飛べない飛行機はただのクルマだ!? 熱烈ファンだらけの謎のクルマ「オウッソ・パルス」 (2/2ページ)

設計したのはアメリカの有名飛行機エンジニア

 実際、このパルスを設計したのはアメリカ航空機業界でその人ありと言われたジム・ビードという飛行機エンジニア。当初はセスナに対抗するキットエア「BD-1」という組み立て式軽飛行機で大成功を収め、その後も画期的なエアクラフトを連発。なかでも有名なのはBD-5と呼ばれる超小型飛行機で、007映画「オクトパシー」でもアクロバティックな飛行を見せています。

 しかし、ビードの設計にはいささか雑なところあり、公表した性能が発揮されなかったり、発売前の手付金をほかのプロジェクトに流用してしまうなど、なかなか破天荒な人物だったようです。

 そんなビジネス上の失敗から、ビードは一時期エアクラフト事業に携われなくなってしまったのでした。が、そんな時期でも彼に手を差し伸べる物好きがいて(笑)、1986年、オウッソ・モーターカー・カンパニーがパルスの設計を依頼。ちょうどBD-5の構想があったものだから、「あれ、クルマにしちゃおうよ」と大胆というか、めちゃくちゃなプロジェクトが完成したわけです。

 パルスは、プロトタイプともいえる前身のライトスターと呼ばれる機体(車体?)と合わせて356機が販売され、オーナーズクラブによればそのほとんどが動態保存されているとのこと。シンプルな設計や、多くのパーツが既存製品からの流用だったこともあって、メンテナンスやカスタムがしやすいという理由もあるでしょう。が、とにかく熱烈なファンに恵まれているのが最大の要因かと。

 毀誉褒貶に絶えないビードを毎年のオーナーズミーティングに招くなど、イベント自体もじつに楽しげ。やっぱり戦闘機カーって誰もが笑顔になる乗り物なのでしょうね。

 残念ながらビードは2015年にこの世を去っていますが、数々のエアクラフトはもとより、オウッソ・パルスを遺していったことは大きな業績に違いありません。惜しむらくは、本当に空を飛べるようなクルマを作ってほしかったと思うのは、決して筆者だけではないでしょう。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

文筆業

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