キャブレターの時代から吸気音はスポーツカーに必要な存在だった
では、吸気音とはそれほどスポーツマインドの味付けになるのか、という話だが、かつてクルマ好きの間でもてはやされた「ソレ・タコ・デュアル」という言葉を覚えている人はいるだろうか。ソレとはソレックス、つまりソレックスやウェーバーといった双胴型キャブレターを指し、エアクリーナーを省略してダイレクトにエアファンネルだけを装着。スロットルを大きく開けたときに「グォ〜」という独特の吸気音を発し、それこそドライバーや周囲の人間を魅了した。
こうして吸入された混合気がエンジン内で燃焼され、その排気が「タコ」つまりタコ足、排気効率を向上させた排気マニホールドを通り、ふたつに振りわけられたテールパイプ、デュアルエキゾーストによって大気に放出されるとき、腹に響くようななんとも魅力的(個人差がきわめて大きな領域の判定観だが)な音を響かせた。
マツダのISEは、規制された排気音にISEによる独自の演出吸気音をミックスし、スポーツカーとしてのドライブフィールを高揚させることが狙いのシステムだ。この狙いは成功したと見てよく、ロードスターのアクセル変化(エンジンの運転変化)を走行騒音規制に触れることなく、ドライバーに走りの味としてうまく伝えている。
考えてもみれば、サイレントパワー、サイレレントスピードによるEVの時代を迎えるにあたり、EVの音のチューニングをどうするか(無音、極低騒音だとクルマの存在が周囲に伝わらず危険だという判断)も大きな課題となっている現代。
内燃機関を使う現行の自動車で、スポーツ系モデルの魅力をどうするかと考え抜いた末、吸気音の演出に目を向けたのは苦肉の策だったかもしれないが、うまいところに着眼したと、開発陣の発想力は賞賛に値するものだ。新たな燃料の開発により、内燃機関搭載車の将来にも光明が見出せるようになった昨今、こうした工夫は意外と大きな魅力になるのかもしれない、と考えさせられる一例だ。