乗降性や開放感は抜群でも……いまじゃタントとMX-30ぐらい! 「センターピラーレス」のクルマが広まらないワケ (2/2ページ)

現在の衝突安全基準では今までのようなモデルは作れない

 ピラーレスのボディをタントのような空間効率の優れた車種に最初に採用したのは、1982年に発売された3列シートミニバンの初代日産プレーリーだった。ボディはコンパクトで、全長が4090mm、全幅は1655mm、全高は1600mmに収まる。後席側のドアはスライド式で、左右両側にセンターピラーを装着しないため、すべてのドアを開くと車内がとても開放的になった。

 ただしプレーリーは2代目になると、一般的なピラーを備えたボディスタイルに変更された。ピラーのない2ドア/4ドアハードトップも、今ではピラーを備えた2ドアクーペや4ドアセダンに変わっている。典型的なピラーレスボディは、タントの左側面と、観音開きのドアを備えたマツダMX-30などに限られる。

 ピラーレス構造が減った理由は、ボディ剛性と側面衝突時の安全性を確保しにくいためだ。日産の開発者は「初代プレーリーのボディスタイルは、今の衝突安全基準では絶対に実現できないものだった」と振り返る。

 それならタントはなぜ成立するのか。ピラーレスに見える左側面も、スライドドアのなかに強固なピラーが内蔵され、側面衝突時の安全性を確保するからだ。そしてタントの開発者は「ボディの左右で形状や剛性が大きく異なるため、走行安定性や運転感覚などを整えるのに苦労する。ふたつの車種を開発するような手間を要する」と述べた。

 つまりピラーレスボディが減った背景には、衝突安全基準などに対する設計の難しさがある。しかもタントはピラーレスボディにしたこともあって販売は好調だが、MX-30は不振だ。苦労してピラーレスボディを採用しても、優れた効果が得られるとは限らない。これらの事情で、今はピラーレスボディが減っている。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
-

新着情報