この記事をまとめると
■旧車でサーキット走行を楽しむユーザーは意外と多い
■旧車オーナーのこだわりはマシンを運ぶトランスポーターにも及ぶこともある
■「アートレーシング」製作の1950年代ヨーロッパ風トランスポーターを紹介
フェアレディオーナーのこだわりのトランポ
旧車でサーキット走行を楽しむ人は意外と多いというのは、国産の旧車関係の仕事を長年こなしてきた筆者の感想です。
「ただでさえ壊れやすいイメージがある旧車で、過酷な負荷のかかるサーキット走行をするなんて考えられない」と思っている人も少なくないでしょう。しかし、実際にサーキットに旧車をもち込めば、「意外と丈夫だな」という感想を抱くでしょう。
さすがにノーマル状態では思いっ切り楽しめませんが、適切なモディファイを行えば、長期間にわたってサーキットを走りまわるという使い方も可能です。
ここで紹介するオーナーさんも旧車でサーキット走行を楽しんでいるうちのひとりですが、サーキット用の車両だけでなく、それを運搬するトランスポーターにもこだわって独自の雰囲気を作り上げているとのこと。
その車両たちを紹介しながら、オーナーさんと製作者のこだわりにスポットライトを当てていきましょう。
■きっかけはSRL311のレースカーを運ぶトランスポーターの製作依頼
この、アメリカの「BREレーシング」のカラーをまとい、昔のヨーロッパのサーキットに迷い込んだ気にさせられる雰囲気を発する車両は、「ダットサン・フェアレディSRL311」のサーキット専用車両を運ぶために依頼され、製作されたものです。
車両のカスタムは、愛知県名古屋市の「アートレーシング」で行われました。依頼者は「ポルシェ908/2(映画「栄光のル・マン」劇中車のレプリカ)」のオーナーでもある森田さんです。
森田さんは以前から「ダットサン・フェアレディ SRL311(※後で紹介します)」でサーキット走行やレースを楽しんでいて、サーキットの移動にはハイエースで車載トレーラーを引いて行っていましたが、なにかと不便に感じたため、専用のトランスポーターの製作を「アートレーシング」の村手さんに依頼することになったそうです。
ベース車に選ばれたのは「トヨタ・コースター(3代目)」というバンタイプのワンボックス車です。てっきり専用の積載車をベースにしているのかと思いましたが、できるだけ取りまわしのいいサイズと、積載状態でそのままフェアレディを保管できるようにしたいということから、このワンボックス・タイプが選ばれました。
そして、どうせ作るならイカした外装をまとわせようということになり、運送するフェアレディのクラシックな雰囲気に合わせて昔のヨーロッパで使われていたトランスポーターのイメージを設定。
具体的には「フィアット・バルトレッティ」という1950年代のトラックをモチーフにしたデザインで仕上げられています。
■外装の架装はできるだけ低コストに簡易な方法で行われた
この車両はあくまでも運搬のためのものなので、できるだけコストを掛けない方向で架装が行われています。ボディワークでは、2017年製の「トヨタ・コースター」のいまどきなテイストを、いかに1950年代風に仕立て直すかという工夫が最大のポイントだといってよいでしょう。
それをできるだけ簡易な方法で行うために使われたのは、通称“アルポリ”と呼ばれる、樹脂の板をアルミの薄板でサンドしたパネルです。ボディの両側面をこのパネルを使ってシンプルに囲うことで、1950年代風のプレーンな面を作っていきました。
そして、曲面で構成される前と後ろのセクションは、アルミの平板からあらゆる形状を作り出す村手さんの手により、クラシックな雰囲気を感じる面構成で仕上げられています。
車両のキャラクターを決定するフロントフェイスは、モチーフのバルトレッティの雰囲気に近づけるために、愛嬌のある丸目のライトを採用して、シンプルな柵状のグリルが製作されました。
運転席のドアはほぼノーマルのままですが、窓の開口部をパネルで覆って形状を変更することで、違和感のない仕上がりになっています。
また、リヤのタイヤハウスにはサイクルフェンダーを思わせるカバーが装着されていて、フロントホイールに装着されたムーンディスク・キャップとともに、1950年代テイストの演出として効いています。
また、おでこの部分に装着された「ビバンダム(ミシュランタイヤのマスコット)」人形が気になった人もいるでしょう。これも当時のトラック乗りたちの間で流行ったものだそうで、人形自体は当時モノを探して入手したそうです。
■格納のためのラダー機構もワンオフで製作
外装については、長年カスタムビルダーとしてさまざまな車両のボディを製作してきた村手さんにとっては朝飯前の作業といえますが、この車両はフェアレディを車内に格納しないとなりません。
この格納機構も外装と同様、既成の機構を使わずにすべてイチから製作されています。
まず、格納状態を計算のうえで室内の積載ラックを鋼材で製作してラダーフレームにガッチリ固定。そのラックに導くためのスロープは、折りたたみ式にしてハッチの内側に格納できるような構成で製作されました。ちなみに、車両の格納とハッチの開閉に使う動力はすべてウインチでまかなう仕組みになっています。
これだけの凝った仕組みでありながら、実際の運用は頑張ればひとりで行うことも可能というシステムとなっているのもポイントです。