この記事をまとめると
■大学自動車部関係者以外にはほとんど知られていない「フィギュア」という競技が存在する
■規定のコースを設置された「缶」やラインを踏まないように走行する地味ながら奥深い競技
■知名度こそ皆無だが自動車部の体育会精神を象徴する隠れた名競技である
「体育会」自動車部を象徴する競技!?
間もなく受験戦争も本格化し、桜の咲くころには(最近はかなり早いみたいだけれど)、新たな人生の門出を祝する入学式というものが行われる。入学式、そしてそれからしばらくの間は、体育会やサークルの新入生を集めるための活動が、キャンパスでは盛んになるのが一般的だ。
まさかこれまでなんの経験もないのに、体育会柔道部に入部しようとか、体育会ラグビー部で身体を鍛えようなどという者はいないとは思うが(とくに私立大学では体育会のこのような部はセレクションであらかじめ入部する選手が決まっていることが多い)、体育会のなかにもちょっと興味を抱いてしまう部があるのもまた事実だ。
その名は「自動車部」。たいがいの場合、「免許がなくても大丈夫です」とか、「自由にクルマを運転できます」の文字が看板にはある。
ちょっと話を聞いてみようかな。そう思ったときにあなたの人生は大きく変わる。自動車部だから、みんなですぐに運転免許証を取得して、仲よくドライブにでも行くのだろうな、などと考えるのは甘い。そう、勧誘にのってしまったあなたは、自動車部の上につく、「体育会」という文字を見逃してしまっていたのだ。
自動車部とて大学から活動予算をもらう部活動なのであり、したがって何かの競技で好成績を収めることが絶対条件であることが必要不可欠。そのためには身体を鍛えるための基礎トレーニングも必要であるし、そのレベルはほかの体育会と変わらない。
では、自動車部が参加しなければならない競技には何があるのか。ジムカーナとダートトライアルは、まず間違いなくモータースポーツであるから違和感はない。なかには一発必勝の精神から横転してしまう者もいるが、たいがいの場合、処分は褒められて終わるのが普通だ。もちろんその後の部車(自動車部で所有しているクルマのことね)の修理には、大変な労力を必要とするのだが……。ともかくジムカーナやダートトライアルは楽しい競技である。
ならば楽しい競技があるということは、楽しくない競技もあるということなのか。答えはもちろん「ある」だ。
それは「フィギュア」と呼ばれるもので、昔、フィギュアスケートの世界にもあった規定という種目のごとく、決められたエリアのなかで、目とミラーの視覚感覚を頼りにその外周の線やエリア内の障害物(たいがいはどこかから調達してきたボイド缶だ)に触れずに、何回も切り返しながらゴールを目指すという種目。一般の人にイメージできるように説明すると、このような表現が限界になる。
線や缶に触れれば減点になるのはもちろんのこと、タイヤを据え切りさせたり、スキール音を出したりするのもまた減点。だいたい昔はパワーステアリングなどという夢のような装備を搭載した部車など存在しなかったから、ここで日常の基礎トレーニングが役に立つわけである。
急発進や急停車などは何をかいわんやの世界。それは相手との戦いではなく、自分自身の精神力との戦いであるといってもよいだろう。減点とタイムで一喜一憂するフィギュアの世界。原稿を書いているうちに、なんだかまた体験したくなってきたということは、じつはこの競技、本当は楽しいものなのかもしれないね。