この記事をまとめると
■「HORD PP40」はホンダ・ビートをベースとしたフォードGT40のレプリカ
■日本工科大学校の学生が「アートレーシング」の監修のもと製作
■ベース車をトヨタMR-Sに変更したボディキットとして市販化予定
超ハイクオリティなGT40のレプリカはなんとビートがベース
GT40とは、米・フォード社が1965年に発売した少量生産のスポーツカーです。ナンバー付きの市販車ですが、レースでの活躍を主題として開発された車両のため、そのつくりはほとんどレースカーといっていい内容で、レースでの活躍とともにフォードの歴史に輝きを添える存在として現在でも多くのファンをもっています。
日本でも海外のクラシックカーや旧車が集まるイベントではちょくちょくその姿を見かけますが、この車両を見かけたのは国産車中心のカスタムの祭典である「大阪オートメッセ2024」の会場でした。
こういう場ではほぼ見かけないので、「なぜここに?」と興味が惹かれて出展ボードを見ると、なんと、この車両は軽自動車のホンダ・ビートをベースに作られたレプリカだというではないですか。
これは詳しく話を聞かねばならぬと、製作をおこなった「アートレーシング(愛知)」を訪ねてみたところ、さらに驚きのエピソードが盛りだくさんでした。
すべてはここでは語りきれませんが、そのトピックを紹介していきたいと思います。
■フォードGT40を簡単に紹介
フォードGT40は、ブランドイメージ強化の戦略としてレースでの活躍を主眼に開発された車両です。
4.2〜7リッターのV8エンジンをミッドシップに搭載した2座式のスポーツカーです。アメリカやヨーロッパのメジャーレースで優勝するなど多くの戦績を残し、計画の目的をしっかり果たしました。
映画「フォードvsフェラーリ(2019年)」ではその開発過程がドラマチックに紹介されていましたので、観て好きになったという人もいるでしょう。
GT40の「40」は車高の40インチ=102㎝を表していて、空力を追求した結果のその低さをアピールしています。レースが主体の設計のため、アメリカ車ですが右ハンドル仕様が基本となっています。1995年にリバイバル販売されましたが、オリジナルはレース車両含めて200台も生産されていないという話もあります。
■レプリカ「HORD PP40」とはどんな車両なのか?
このフォードGT40のレプリカ車両は、2024年の「大阪オートメッセ」の会場内、兵庫の「日本工科大学校」のブースに展示されていました。
車両だけを見て「なぜここにGT40が?」と思ってしまうほどに“本物っぽい”雰囲気があり、よくまわりを見渡すと、自動車専門学校の学生が製作した車両たちが並ぶ一角なことに気付き、また驚かされました。
本物を並べて比較すれば細かい点や素材などが異なるのに気付くかもしれませんが、写真で見るくらいでは見わけられないくらいにその完成度は優れていて、正直にいってしまうと学生の手によるものとは思えませんでした。
しかし、話を聞いてみると、製作したのは紛れもなく学生だというではないですか。これは個人的にもかなり興味を惹かれましたので、製作の監修をおこなったという、愛知の「アートレーシング」を訪れ、実車を前に詳しくインタビューをおこないました。
■「HORD PP40」製作の経緯
この「HORD PP40」は、兵庫にある「日本工科大学校」の学生の卒業制作の作品です。製作に当たったのはリーダーを努める4年生の高瀬さんと、補佐で付いた3年生2名という、たった3名のチームです(学年は大阪オートメッセ2024当時)。
製作期間は2023年の6月から2024年の2月までの8カ月間。作業内容や完成度を考えると「たったそれだけの期間で?」と思いますが、展示の当日まで仕上げの作業をおこなっていたそうです。
なぜこのGT40を製作しようと思ったのでしょうか? そのきっかけはリーダーの高瀬さんが憧れていた「ベイビーコブラ」という「シェルビー・コブラ」のレプリカ車両でした。その再現度の高さに感動し、「いつかあんな車両を製作してみたい」と希望を思い描いていたそうです。
その「ベイビーコブラ」を製作したのが、「HORD PP40」製作の監修をおこなった愛知の「アートレーシング」の代表を務める村手さんです。「ベイビーコブラ」はスズキの「カプチーノ」をベースに製作された高い再現度を誇るレプリカ車両です。
以前から温めていた「ベイビーコブラ」のようなクルマを製作する夢が実現できることになり、それをなぞるカタチで当時ABCトリオと呼ばれた「AZ-1」、「ビート」、「カプチーノ」のなかから、入手しやすい「ホンダ・ビート(PP1型)」を選んだそうです。
モチーフ車は、「コブラ」を設計した「キャロル・シェルビー」がレース車両のテコ入れをおこなった「GT40」を選択。「ビート」と同じミッドシップ車というのもピッタリでした。
■「やるからには完璧を目指そう!」と高い目標を掲げて製作に挑戦
監修を努めた村手さんは長年ドラッグレーサーやレース車両などのボディ製作をおこなってきた職人気質のカスタムビルダーで、その筋では第一人者と目されている人物。その妥協のないボディワークによるハイレベルな仕上げには、業界内に多くのファンがいます。
そんな村手さんが製作した「ベイビーコブラ」に感動して目指そうと思った高瀬さん、卒業制作の監修に憧れの村手さんが付くことになり、チームのメンバーとともに気分はアゲアゲです。
「どうせやるなら、妥協のない物を作ろう!」という村手さんの理念に共鳴し、製作はスタートしました。完璧を目指すということで、サイズは極力本物と同じ寸法に設定されました。とはいえ、ベース車の制約でホイールベースが約200mm短く、最低地上高の限界により車高は約3cmほど高くなりましたが、全長と全幅は本物と同じサイズで仕上げられています。
この寸法に設定することによって、無理にデフォルメをすることなく本物の形状を高いレベルで再現することができました。村手さんが見ても「見わけるのは簡単ではないでしょう」といえるクオリティだそうです。
■デジタル技術と職人技を融合して臨機応変に製作
前後のカウルやルーフ、ドアなどの主要な部分の造形については、新しい技術の習得と製作期間の短縮のため、実車の3Dデータをもとにした型を起こしてのFRP造形によるものです。
そして、このレプリカ車両製作のハイライトはここからです。ベース車が「ビート」ということで、本物と比較してホイールベースが約150mm短いため、その辻褄を合わせないとなりません。
素人考えでは、フェンダー部分を1度埋めて「ビート」のタイヤの位置に合わせてホイールアーチを切れば良いと考えてしまいますが、それでは魅力的なフェンダーの曲面が崩れてしまいます。なので、ズレたホイールアーチの位置とボディの面を違和感なく繋げるため、広い範囲で造形をし直しているそうです。
具体的には、ボディを大きく切り取ってその上にアルミの板から叩き出して曲面を再現したパネルを形成していくという方法です。いうは易しですが、現物合わせの感覚頼りでなめらかな曲面を作っていくというのはかなり高いスキルが要求されます。
このアルミ板から面を形成するという方法は村手さんの真骨頂の部分なので、フェンダーの作業の間は高瀬さんという弟子に技術を伝授するような様子で進めていたそうです。