細かいパーツはワンオフだらけ
■ボディ各所に見えるこだわりの要素
こうして最大の難所であるホイールベースのつじつま合わせが完了しましたが、やらなくてはならないことはまだまだ山積みです。それらのうち、ハイライトの部分をダイジェストで紹介しましょう。
●型から製作したアクリル製のウインドウ
「GT40」と「ビート」は外装で共通する部分はありませんので、すべてをイチから製作しなくてはなりません。それは窓ガラスの部分も当てはまります。さすがにガラスをイチから作るのはほぼ不可能なため、アクリルの板を曲げてウインドウ類を製作しています。
まずは3Dデータからウインドウの型を製作します。そこにヒーターで熱して柔らかくしたアクリルの板を押し当てて製作します。この成型の時点で何度か失敗するくらい難易度の高い作業ですが、もっとも難しいのはボディとの合わせだそうです。
装着後にウインドウが自重で凹んでしまわないようにするためにある程度の張りを持たせる必要があり、装着時に両端を押し付けるように成型するそうですが、そのときに曲げて押し付ける変形分の長さを見越してカットしないとなりません。その微調整にかなりの時間と労力を費やしたとのことです。ちなみにヘッドライトのカバーも同じ方法で製作しています。
●内装は“それっぽい”シンプルな造形で労力を短縮
この車両、実走は想定していませんが、ドアの開閉も再現しているので内装もある程度製作しなくてはなりません。「ビート」のフロアパネルでは雰囲気が出ないため、不要な部分を1度すべて取っ払い、その上からアルミパネルでレース車のような雰囲気の内装を再現しています。
なるべく時間をかけないようにシンプルにしていますが、囲まれたスペースの内側に内装を形成していくのは外装とは別の難しさがあるため、一筋縄ではいかなかったようです。
●ボディのワイド化に合わせたホイールとタイヤの選択
この車両では、ベース車の基本部分を加工せずに仕上げています。そのため、大幅に拡大された車幅に合わせてホイールの面を外に出す必要があります。
これにはオフセット量が大きいホイールを装着することで対応しています。選べるオフセットの幅が広いWORK製のエクイップ40(前:15×10J off-44/後:15×11J off-31)ですが、これだけのオフセット量は特殊な部類に入るでしょう。
昔の雰囲気を感じる丸みを帯びたフォルムのタイヤは、ナンカンのクロススポーツSP-9(前:235/60R15/後:295/60R15)を装着しています。また、そのオフセットの大きいホイールと肉厚のタイヤのため、ステアリングを切るとフェンダー内部に干渉する問題が発生したため、前のフェンダー後部の壁を作り直しています(アルミ地の部分)。
●じつは貼られているステッカーはすべて手切り
いわれないと見逃してしまいますが、貼られているステッカー類はすべて手でカットされたものだそうです。
いまは印刷やカッティングもリーズナブルに請け負う業者が増えてきていますが、これも修行の一環ということもあり、村手さんの指導の下でカット作業をおこなったそうです。このカット作業は展示の前日まで行っていて、当日に展示場で貼り付けていたんだとか。
■キットの市販化を検討中
さて、この高い完成度を誇る「HORD PP40」ですが、現在市販化に向けてボディキットの製作が行れているとのことです。
さすがに実走を考えると、「ビート」がベースでは無理な部分が多くあるため、ベース車をトヨタMR-Sに変更して、形状の最終調整をおこなっているとのこと。販売仕様の最終モデルは横浜の「ノスタルジック2デイズ」で展示予定とのことなので、実車を見るのがいまから楽しみです。
ちなみに、この「HORD PP40」を製作した高瀬さんは、学校を卒業してすぐに「アートレーシング」の門を叩き、いまはスタッフの一員としてプロの職人の見習い中でした。憧れだった村手さんの弟子として充実の毎日を過ごしているようです。
「大阪オートメッセ2025」には、「日本工科大学校」の学生による卒業制作の車両と、「アートレーシング」の村手さんがカスタム依頼を請け負った車両が展示されるとのことなので、来場予定の人は注目してください。
取材協力:日本工科大学校(兵庫県姫路市兼田383−22)/アートレーシング