速度が上がると人間側に求められる要求も上がる
以上は物理的な話で、運転する人間はというと、眼科の検査で行われる静的な視力検査に対し、運転中に必要な動的視力は、大型トラックを運転する50歳前後の平均年齢で2割ほど落ちる(出典:セーフティドライビング・シニアドライバー用)。
これが60歳を超えると3割近くに衰える。大型トラックの運転者の高齢化は課題となっており、その動体視力が歳を重ねるにしたがって落ちるとすると、走行速度が高くなることによる見落としや、集中力の持続の難しさなどが重なる可能性が出るだろう。運転者への肉体的負担増は、トラック業界から不安視する声が出ている。
運転支援機能の装備により、車両側で安全性能の向上はなされても、運動エネルギーが大きくなり、急には止まれない速度からの危険回避は、より厳しさを増すはずだ。
安全とは別に、輸送原価に関わる燃費においても、空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなるので、時速80kmから90kmへ高まると、空気抵抗は運動エネルギーのときと同じ1.26倍になる。燃費が悪化するのは間違いない。そもそもトラックは、乗用車に比べ荷物の運搬を優先に四角い格好をしているから、姿形として空気抵抗の影響を受けやすい。
海外の一例として、速度無制限区間のあるドイツのアウトバーンにおける、大型トラックの速度制限は時速80kmだ。日本よりもっと乗用車との速度差が大きくなるはずのアウトバーンで、なぜ時速80kmの規制が守られているのか。
トラックによる物流の効率化はもちろん必要だが、トラックと乗用車が混走する高速道路での安全をいかに向上させるかは、速度差を縮めればよいという単純な話ではないことを肝に銘じるべきだろう。