サクラは中古車としての再販価値が低い
サクラは2022年5月に発表されており、全軽自協(全国軽自動車協会連合会)による、通称名(車名)別販売台数統計では2022年5月から登場している。サクラももちろんだが、BEVを購入する人のほとんどは補助金交付を受けているので、BEVの場合はICE車と異なり、初回車検のタイミングまでといった短期間経過の段階での中古車流通台数はICE車ほどのスピードでは増えていかないのが一般的。ただし、サクラの様子を見ていると、そのほとんどがまだ補助金交付による保有義務期間となる2024年秋以降に中古車流通台数が急激に増えている(補助金交付を受けていないケースもあるが)。
保有義務期間であっても、残存期間に応じた金額を国や自治体に返納すれば売却は可能となっている。筆者はある外資系新車ディーラーへ行ったときに、「補助金交付を受けても返納すれば短期間での乗り換えも可能です」といった話をセールストークとして聞いている。
「いまは返納については厳しく管理されているようですが、過去には返納を求められないケースもあったようで、『保有義務期間に売却しても補助金返納を要求されることはないようですよ』などといってくるセールスマンもいたようです」とは事情通。現状では日本でもそれ相応にCEV(クリーンエネルギー車/補助金交付対象車)は増えているので、保有義務期間内に売却するとしっかり追跡されているそうだ。
生産体制の問題などもあるが、単純に統計数値を比較すると、2023年に比べ2024年はサクラの勢いが減退している状況となっている。
2024年秋以降に中古車台数が急に増えているのは、自社届け出(ディーラー名義などでナンバープレートだけつけること)が増え、届け出済み未使用中古車としての流通が目立ってきているのかと思い、ある大手中古車検索サイトを見てみた。すると、意外にも走行距離が数十kmといった物件は少なめで、数千kmという物件が多いので、ディーラー試乗車あがりのような物件が目立っているように見える。
サクラが2024年秋あたりから保有義務期間中なのに中古車流通台数が増えてきているのは、おそらく補助金返納額がある種「採算分岐点」、つまりそれなりの負担があるものの、「補助金を返納してでもほかの新車へ乗り換えを検討してもいいかな?」というレベルに、返納額が落ち着いてきていることを意味しているものと考えられる。
「4年乗った時点での再販価値と、補助金の残りを返納して2年ぐらいで乗り換えても変わらない(むしろプラス)」と考えて、4年縛り中に乗り換えているのかもしれない。つまり、「損切り」のような形で短期間で乗り換えるという人もいると予想できる。
レベルは異なるが、残価設定ローンを利用した新車購入では完済する前、つまり残債がある状態で下取り査定額などによって残債が相殺できるタイミングで新車へ乗り換えるという人が多くなっている。欧米や新興国ではローン支払い途中で残債整理して乗り換えるというのはポピュラーな新車への乗り換え方法なので、日本でも「欧米スタイル」が定着しつつあるといえる。それがBEVでも、4年という保有期間内に補助金を返納して乗り換えるというスタイルが定着してきていると想像できる。
補助金に対する考え方は2通りあり、「同サイズICE車より割高なぶんをフォローしてくれて助かる」という捉え方がある一方、「もらえるならばもらっておこう」という考え方もある。補助金はクルマ購入時ではなく、初度登録が済んでから、つまり事後申請となるので「購入予算の一部」と捉えるか、捉えないかで考え方がわかれる。
そも、そもいまどきBEVを買おうとする人は、所得に余裕のある人なので、「やっぱりBEVはまだ早かったかなあ」と後悔した時点でICE車に戻して乗り換えるということも結構目立つようだ。
全軽自協統計をベースに計算すると、2022年5月から2024年11月までの累計販売台数は7万8030台となっている。今後、サクラの中古車流通台数が増えていけば、新車価格比で7割を下まわっていくことは需要と供給の関係からいけば自然の流れなのだが、値落ちスピードにスロットルがかかっているように見える。
BEVの課題としては、一度BEVを所有しても「次もBEV」とはならずICE車回帰という動きが目立つのも、日本だけではなく諸外国でも課題となっているようだ。日産系ディーラーで聞いても、「弊社のBEVを買ったあと、ノートなどeパワー車に乗り換える人が目立つ」とのこと。
サクラの場合は、軽自動車規格であり、買い求めやすい価格設定なのだが、航続距離などに難があり、販売時にもセールスマンによっては「遠出は控えてください」などと説明しているそう。過疎地域で生活圏内の移動しかほぼクルマを利用しない高齢世帯では使い勝手がいい(ガソリンスタンドでの給油もいらないし)のだが、サクラを含むBEVだけですべてを賄おうとすると、それを「負担が重い」と考える人がまだまだ多くいるのも間違いない。
今後、さらに保有義務期間終了が近づくにつれ、サクラの中古車は目に見えて流通台数が増えていくことになりそうだが、サクラの例はあくまで今回サンプルとして取り上げたにすぎない。多くのBEVではレベルの違いはあるが似たようなことが起こっており、結果として「BEVは再販価値の下落が激しい」となってしまっているものと考えている。
今後、充電インフラなど周辺環境の整備が進んだとしても、この再販価値の問題はそれこそ欧州やカリフォルニアのように期限を設けてICE車の販売を全面的に禁止しても、それは新車販売を禁止するだけなので、かえってICE車の中古車価値を高めてしまうことにもなりかねず、根強いBEVへの課題として残りそうである。