お互いの文化をどこまで尊重できるかがカギ
前置きが長くなったが、クルマ好きとしてはGT-RとNSXという偉大なスポーツカーを擁する日産とホンダが今回の経営統合によりどのようなクルマを生み出すのか、非常に興味深い。しかし、実際のクルマ作りの前に、どの領域技術の協業が可能なのか、その基盤となるシナリオが重要だろう。
日産は「技術の日産」、ホンダは「Power of Dreams(夢を叶える力)」を掲げている。この言葉には両社の哲学が反映されており、日産は技術志向である一方、ホンダはベンチャー精神に基づく夢を追求している。
日産車の歴史を振り返ると、創業は古く、田(でん)、青山、竹内の3名の創業者の頭文字を取った「DAT」に由来する「DATSUN(ダットサン)」が誕生した。その後、戦前には鮎川財閥に吸収され、戦時中には軍用車の開発も手掛けたことで、日本の自動車産業を象徴する企業となった。戦後は「日本産業」となり、その名前から日産が誕生した。こうして激動の時代を生き抜いてきた日産の歴史は、日本という国家および製造業の歴史と深くかかわっている。
一方、ホンダは純粋な民間企業として誕生し、独自の組織構造を有している。本田技術研究所、本田技研工業(本社機能および生産販売を担当)、生産技術を担う本田エンジニアリングに分社化されている。これは創業者・本田宗一郎の信念に基づくものであり、「技術は失敗してもよいが、生産に失敗は許されない」という理念から設計されたものである。この両社の哲学の違いが、統合における最大の課題となり得る。
私自身、YouTubeおよびWEB媒体にて、今回の経営統合における勝ち筋を提言している。興味のある方は参照されたい。
私が考える日本の自動車産業の未来の勝ち筋は、東西の二大創業家を中心とするBIG2の形成である。世界の状況を見ると、創業家が強い存在感を示すメーカーは安定的に経営を続けられているが、そうでないメーカーは離合集散を繰り返し、安定には程遠い。
日本では豊田家を創業家とするトヨタが、ものづくりの哲学を明確にもち、現在ではスズキ、ダイハツ、SUBARU、マツダをグループに迎えている。一方、ホンダは世襲を否定しているが、本田宗一郎の哲学は引き継がれている。ホンダが中心となり、日産と経営統合することによって、日本には二大創業家を基盤とするメーカー連合が誕生し、競争力が向上すると考えられる。トヨタグループとホンダグループがよきライバルとして協調・競争の関係を構築することで、日本の自動車産業はさらなる発展を遂げるであろう。
最後に、世界の主要な創業家やブランド哲学を有するメーカーを挙げる。アメリカではフォード家のフォード、ドイツではフェルディナンド・ポルシェのポルシェ、ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツのメルセデス・ベンツ、BMWはクワント家が経営している。英国では民族資本の流出にもかかわらず、ロールス・ロイス、ベントレー、ジャガー・ランドローバー、ミニ、マクラーレンなどのブランドが存在感を維持している。
イタリアではフェラーリが、フランスではプジョー家がプジョーやシトロエンを支えている。これらのメーカーはいずれも創業者の哲学を継承し、差別化された製品を生み出している。EV市場で先行するテスラやBYDもまた、創業者の哲学が明確に示されている。
ホンダと日産の経営統合は失敗は許されないものであり、二大創業家の連携による競争と協調が、日本の自動車産業の未来を切り拓くと確信する。