この記事をまとめると
■漫画「頭文字D」で読者を沸かせたのがAE86型スプリンタートレノによる「格上食い」
■ローパワー車でハイパワー車を打ち倒すことは実際に可能なのか検証
■シチュエーションを選べば「ない」とはいえない
「頭文字D」ばりの下剋上は実際のところ可能なのか?
もしも同等のテクニックをもった人が、ハイパワー車とローパワー車でダウンヒルを競ったら、頭文字Dのように、ハイパワー車にローパワー車が勝つということは起こりうるのだろうか?
「判官(ほうがん)びいき」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 「判官(はんがん)」というのは源義経を指し、じつの兄である頼朝によって悲劇的な最期を迎えた義経に多くの人が同情したことから生まれた言葉だ。
立場の強い者に立場の弱い者が対抗し、打ち負かそうとするのを応援したいと思う人は、とくに日本人には多いといわれている。それは日本人にとってひとつの美学といえるほどだと思う。
義経の逸話について、武蔵坊弁慶との出会いからともに迎えた最後まで、おそらくのちに創作されたものが大半だろうが、数々のエピソードがある。頼朝を倒すことはできなかったが、じつは死なずに逃げて生きながらえたという説や、あげくは大陸にわたって伝説の英雄になったという説まで生まれたほどだ。
「判官びいき」により、いくつものストーリーができて、それがあたかも事実のように語り継がれていくのは、「こうだったらいいのに」という多くの人の思いがそうさせているからにほかならない。
クルマの世界でも、小さな車体で大きな高性能車を追いまわす様子が印象的で、「ジャイアントキラー」と呼ばれたアバルトのように、かねてから弱者が強者に打ち勝つのは、ひとつの美談としてもてはやされてきた。
そんなわけで、ローパワーで車格の高くないAE86が、高価なハイパワー車を次々と倒していくさまを描いた有名漫画に多くの読者が共感したのだ。
そこで気になるのが、本当に漫画で描かれていたようなことがおこりうるのかどうかだ。
漫画ならいくらでもなんでも描ける。だから、あれは漫画の世界の話であることには違いないわけだが、ハナから決めてかからず、ちょっと論理的に考えてみよう。
じつは筆者も赤黒のトレノを若いころに2年半ほど愛車にしていた。AE86というのは軽くサイズが手ごろで、エンジンはハイパワーとは呼べないまでも、高回転までよくまわり、足まわりは現役当時ですら旧態依然としたもので完成度は高くはなかったものの、乗っていて楽しいクルマだった。
では、実際に漫画で描かれていたようなことが起こりそうに感じさせるなにかがあったかというと、現実的には難しいだろうというのが率直な印象だ。
クルマの速さというのは、まず動力性能がものをいう。基本的にはパワーがあるほうが絶対的に有利だ。
では、ハイパワー車とローパワー車の速さの違いがどこから生まれるかというと、それはいうまでもなく加速するときだ。ストレートはもちろん、多少曲がっていても、コーナーからの立ち上がりでも、瞬発力があるほうが有利に違いない。
逆に、コーナー進入とコーナリング中は、パワーがあろうがなかろうがあまり関係ない(厳密にいうとコーナリング中もエンジンレスポンスがいいほうが姿勢を積極的にコントロールできて有利というのはあるが、ここでは無視する)。
そんなわけで、タイトターンが連続していてストレートが極端に短いコースの場合、ハイパワー車はせっかくのパワーを活かせない。むしろローパワー車が軽ければ、ハイパワー車に引けをとらないかもしれない。