ケータハムはセブン一筋なわけじゃない
この際、ネアン氏は自社のシリーズ3をロータスの完コピとしたのではなく、ヒーターを追加したり、シャシーの各部を補強するなどのアップグレードを実施。これ以降のケータハム・カーズはセブン無双ともいえるほどさまざまなバリエーションをリリースし、それぞれが熱狂をもって迎えられたのです。
たとえば、ロータス製8バルブDOHC1600cc(121馬力)ロータスツインカム搭載モデルはそれこそロータス原理主義的なオーナーから「これぞ正統」とばかりに大絶賛。冒頭に記したスズキの660ccターボを搭載した2014年発売のスーパーセブン160は、80馬力ながら440kgという軽量を活かして世界でもまれにみるライトウエイトスポーツカーに仕上がっています。はたまた、ホンダCBR1100XXなんてバイクのエンジンを積んだブラックバード(170馬力/車重422kg)なんて限定版もありました。
とにかくセブンのバリエーションはとてもひと晩では語りつくせぬほどの数と特徴があるわけで、ケータハム=セブンのメーカーといっても過言ではないでしょう。
もっとも、少数ながらセブン以外のモデルもあるといえばあるわけで、最近ではフルEVの2シータースポーツカー、プロジェクトVを発表。イタルデザインによるボディの下には後輪を駆動するシングルモーターが搭載され、ロードモデルとして開発が進んでいます。
また、2013年にはエアロセブンという空力を積極的に利用するボディを載せたモデルを発表したほか、SP300Rと呼ばれるレースカーはケータハムがチューンアップしたエンジンをローラのシャシーに載せるなど、バリエーションの拡充にも積極的。
が、これまた事情通がよくご存じのとおり、ケータハムの資本、つまり経営者はコロコロと変わってきました。まず、2005年には創始者グラハム・ネアンの息子、サイモンが経営権をロータスの元ゼネラルマネージャー、アンサー・アリに売却。2011年になると、格安航空会社エアアジアのCEOであるトニー・フェルナンデス率いるF1チーム、チーム・ロータスにより買収。この際、チーム・ロータスは「ケータハムF1チーム」として参戦したものの、2014年にはフェルナンデスがチームを投資家グループに売却し、F1から撤退というじつに浮き沈みの激しい歴史を刻んでいるのです。
ようやく落ち着いたのは2021年のことで、ケータハムの日本総輸入元であるエスシーアイを子会社にもつVTホールディングスが全株式を買収し、堅実な経営になってからのこと。全従業員を合わせても100名たらずという規模ながら、余りある存在感をもつメーカーはケータハム・カーズをおいてほかには見当たりません。
願わくは、これからもセブンをコアに据えた熱いビジネス、ハンパないモデルのリリースを期待したいものです。