いまでは「ラバーバンドフィール」を感じるようなCVTは皆無
あらためて、ラバーバンドフィールをシンプルに整理すると「アクセル操作に対して、エンジン回転が先に上昇して、速度はあとからついてくる」症状を示す言葉といえる。アクセル操作を、ドライバーが加速や速度に関する意思を機械に伝える入力装置だと捉えると、ラバーバンドフィールとは、パワートレインにおけるリニアリティのなさ、レスポンスの悪さなどネガティブな評価を示す言葉と理解すべきだろう。
そして、少なくとも2010年代以降のCVTにおいて、筆者は上記の意味でのラバーバンドフィールを感じたことはない。むしろ、CVTに関わるエンジニアがラバーバンドフィールと評価されることを避けるためにプーリーの挟む圧力を高めるなど、レスポンス重視の方向にCVTを進化させてきた印象さえある。
その最たるものがCVTにおけるマニュアルモードやステップ変速制御といえる。本来は、エンジン効率の優れた回転域をキープするように制御することがCVTを採用するメリットなので、あえて従来のステップATのような演出を入れているのはナンセンスに思える。しかし、そうした演出によってラバーバンドフィールという悪評が消えるのであればやむなしと考えたのであろう。
ステップ変速的な演出でラバーバンドフィールを感じなくなるということは、ユーザーのなかに「CVTにはラバーバンドフィールがある」という先入観があることの証左といえるかもしれない。
なお、前述した「エンジン回転が先に上昇して、速度はあとからついてくる」状態をラバーバンドフィールと呼ぶのであれば、そうした感触を得やすいのは、CVTを含めた多くのATに採用されている「トルクコンバーター」由来のことが多く、そこを指しているのではという印象もある。
現在のようにロックアップ機構をもたないことが多数派だった時代のATでは、トルクコンバーターのトルク増幅作用が働いてるとき、エンジン回転は高めになり、しかして速度は上がらない(加速は鋭くなる)状態になることが多かった。
とくに小排気量エンジンになるとトルク増幅作用を利用する領域が広くなるため、エンジン回転は上がっているのに、思ったほど速度が上がらないという現象が発生しやすいのだ。もちろん、こちらもトルクコンバーターを直結するロックアップ制御によって改善されている。
すなわち、かつてのような誰もが体感できるレベルの「ラバーバンドフィール」を感じる現行車はほとんどないといっていい。エコモードなどのアクセル操作に対して、あえてレスポンスをマイルドにするドライブモードで走っているともどかしさを感じることがあるかもしれないが、機械的に解決不能という意味のラバーバンドフィールは死語と呼んでいいだろう。