パーツの再生産は作る側だけの問題じゃない
●置き場所の確保
クルマに装着されているとあまり気になりませんが、ネットオークションなどでクルマのパーツを購入し、自宅に送られてくると思わず「デカっ」と叫んだことがあるかもしれません。そうなのです。クルマのパーツは思いのほか場所を取るのです。事実、旧車およびネオクラシックカーオーナーを取材していると、自宅の1部屋分を「パーツストック部屋」として潰しているという話をしばしば耳にします。
いつ使うかどうかわからない、でももっていると安心する。いざとなればネットオークションに出品して修理費用に充てられる。まさに保険(精神安定剤?)ような役割を担っているのです。
個人宅に比べれば、自動車メーカーのパーツセンターやサプライヤーの工場の敷地面積は比較にならないくらい巨大です。とはいえ、置き場所には限界があります。企業にとっても在庫(資産)ですから、製品のコンディションを維持した状態で保管する必要があります。ましてや、同時並行で現行モデルのパーツも生産しているわけですから、優先度を考えたらおのずと答えが出てしまいます。
●金型や生産済みのパーツも在庫や資産として計上する必要があり
「棚卸し」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。現在、どれくらい在庫を抱えているのかを確認する作業です。そのためにホームセンターなどの店舗が月末や年度末になると早めに店じまいをしたり、ときには臨時休業することもあります。
また、パーツを作るための金型が固定資産としてカウントされる場合、会計上の処理が必要ですし、さらには減価償却をどのくらいの期間で行うのかといったことも必要になってきます。そのために、自動車メーカーとサプライヤー双方が協議したうえで「落としどころ」を見つけ、書面上の契約を交わさなくてはなりません。
生産終了したクルマのパーツや金型などのストックを、いち担当者の心情としては残しておきたい……。けれど、会社の資産の一部として考えた場合、そして商売である以上、利益を生み出す可能性が低いものは泣く泣く処分するしかない場合もあるのです。
●サプライヤーの理解(共感)や協力が必要不可欠
1台のクルマを生産し、ユーザーに届ける場合、自動車メーカーの力だけではどうにもなりません。各分野のスペシャリストであるサプライヤーの理解と協力が必要不可欠です。しかも、大量生産される新型車ではなく、とうの昔に作られたクルマのパーツを再生産する……。それもビジネスとして。さらにはこのプロジェクトを成功・継続するための「人・モノ・金」を投入しなければなりません。
再生産するとしても、メーカーやサプライヤーが二の足を踏むモデルやパーツも少なからず存在します。大企業ですら躊躇する行為をいち専門店が行うとしたら、とてつもない設備投資、そして相当な覚悟が必要です。「やりたいのはやまやまだけど、銀行にいくら借り入れすればいいんだ?」というくらいの清水ダイブです。「ハイリスク&ローリターン」になる可能性も十分にあります。
どうにかこうにか再生産にこぎつけたとしてもユーザー、ましてやマニアの評価は残酷です。「オリジナルと質感や素材が違う」「高い」「ほしいパーツが再生産されない」「自分のクルマのパーツはいつ再生産してくれるのか」といったユーザーからの叫びがSNSなどで飛び交います。それはそれでユーザ目線において当然の要求であり、そういったシビアな声がなければ、絶版車の再生産を声高に宣言することはなかったはずです。
それぞれに思うところが多々あるかもしれません。しかし、自動車メーカーやサプライヤー、あるいは各専門店が「心意気で行っている取り組み」という視点で捉えると、まったく受け止め方が変わってくるはずです。