R32GT-RのガワでEV化したクルマじゃない! R32EVはエンジン車オーナーをも満足させる凄まじい作り込みだった (2/2ページ)

オリジナルを忠実に再現したR32EVのインテリア

 インテリアは「できる限り何も変えたくなかった。オリジナルをそのまま残したかった」(平工さん)というが、身体が触れるシートやステアリング、シフトノブは劣化が進行。また、数多くの部品で構成されるアナログメーターを含め、すでにオリジナル品が調達できなくなったものもあることから、これらは可能な限りオリジナルを再現しながら新作されている。

 このうちシフトレバーは、BEV化に伴い操作ロジック自体は一般的なAT車のPRNDパターンに変更されているが、シフトノブはR32GT-Rの5速MT用の形状・材質を忠実に再現。一方で、MTモードを実装すべく、ステアリングにはパドルシフトを追加している。これはシフトアップ側とダウン側、双方のパドルを3秒間引き続けるとMTモードへ移行できるのだが、そこから回転を高く保った状態で1速に入れると、MT車さながらの急発進も可能なのだという。

 また、運転席のメーターに加え、インパネ中央の3連メーターは、オーディオ・空調パネルを含めて、「電気自動車でいろんなパターンの作り込みができるよう」(平工さん)フル液晶化。なお表示内容も微妙に変化しているが、写真で見る限りはオリジナルのアナログメーター・スイッチ類と見まごうほどの再現度だ。

 そして運転席と助手席は、レカロ製のフルバケットシートに換装。ただし、表皮は「当時のものを彷彿とさせるような生地を探していただき、新調」(平工さん)している。

 さらに驚かされるのは、内外装や走行特性のみならず、音や振動もオリジナルの再現を徹底的に追求していることだ。

 大型のウーファーを運転席と助手席の背後に搭載し、そこから再生するRB26DETTのエンジンサウンドによりシートを振動させることで、オリジナルの振動やエンジン音を再生。「風切り音やタイヤノイズが混ざる実際の走行中に体感すると、とくに中高音域の伸びがよりリアルに聞こえる」(平工さん)ようチューニングしている。

 なお、このシステムは「クルマのマニアではなく、R32のことをまったく知らない音のマニアが、相当こだわって一生懸命作り込んでくれた」(平工さん)逸品だそうだ。

 この「R32EV」、プロジェクト発足当初は、とくに社内で賛否両論があったものの、前述の「R’s Meeting」ではむしろファンからの好意的な反応が多く、個々の技術や部品の市販化を望む声も多く寄せられているという。

 一方、BEVでガソリン車の走りを再現する取り組みは他社でもすでに研究開発、あるいは市販化の段階まで進んでいる。これに対し平工さんは、「ガソリン車の走りを忠実に再現することと、ドライビングプレジャーを抽出することは、必ずしも一緒ではありません。我々の目的は、いまは再現といっていますが、再現が目的ではなく、そのなかに仕込まれている、運転する楽しさのエッセンスをどう取り出すかが目的です。そのために、まずは再現をしてみて、楽しさのために大事なポイントと不要なところをしっかり技術的に押さえていって、それをBEVに盛り込む。(R32EV開発は)そのための活動です」と、その違いを端的に説明してくれた。

 また、GT-Rに求められる速さについても、「速さと運転する楽しさは、必ずしも同じではありません。R32EVに乗ると速いかというとそうではなく、電動車でもっと速いクルマはあるわけです。でも運転すると楽しい。そこをちゃんと抽出しないと、昔のよさをないがしろにすることになります。ニュルで7分を切るといった速さは結局、普通のお客さんは数字的には驚いても、体感することはできません。クルマを買っていただける普通のお客さんが体感できる価値を、我々は作らなければなりませんので、それはやはり、運転する楽しさということになります」と、近年のR35GT-Rの進化にも見られる、運転する楽しさをより重視する姿勢を明確に示していた。

 そして、そのR35GT-Rは2025年8月生産終了の時を迎えるものの、次世代モデルの開発が検討されていることも、いまや公然の秘密となっている。この「R32EV」で得られた知見が、今後の日産車にどう採り入れられるかを問うと、「次のGT-Rの話は、してはいけないことになっているので、そこは言及できませんが(笑)、こういう技術は当然大事にしていきます。どこかのプロジェクトにつながるようには考えていきたいですね。もちろん、GT-Rより手頃なスポーツモデルにも、この技術を展開することは可能です」と明言。

 さらに、「今回の活動を始めるときも、S13シルビアやS130系フェアレディZを使ったほうが世間的にも受け入れられやすいのではないかという声がじつはあったんですが、エンジニアとしてやりたいという本心もあり、また本気度合いも伝わりやすいということもあって、R32GT-Rを選びました」と、プロジェクト発足時の裏話も披露してくれた。

 今後の日産製スポーツカーのあり方を示唆する存在になるであろう「R32EV」の実車を、ぜひオートサロンの会場で目にしてほしい。


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
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ゲーム
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