クルマも飲み込んだデジタルの見本市
実際、ニューヨークで行われた1967年のCES初回での展示物は、ポケットラジオやテレビ、その中身であるIC回路だったとか。1970年にはビデオカセットレコーダー、1980年代にはCDプレーヤーや家庭用ゲーム機、1990年代にはDVDやゲームソフト、2000年代にはコンピュータのOS、2010年代はプロセッサやエンベデッド(ソフトウェア・)システムなど、CESは時代ごとに脚光を浴びるアイテムを変えながら領域を拡大してきた。
自動車は、2008年にGMが独自のFCEVを、2011年にフォードがフォーカスのBEVを発表するなどしていたが、このころまではテレマティクス技術または車載タッチパネルの解像度が上がったといった話題に限られていた。
とくにBEVやSDVがCESの目玉になってきたのは2012年以降、メルセデス・ベンツがクラウド技術をベースに「コネクティッドカー」を押し出し、2015年に「F015 ラグジュアリー・イン・モーション」というコンセプトカーで自動運転をロードマップ化してからだ。
つまり、アマゾンやNVIDIAやグーグルと肩を並べる場で、クルマの運転はエンベデッド・ソリューションのひとつになり得るというような考えを、当の自動車メーカーが示したのだ。
その後、ソニーが2020年と2022年に「ヴィジョンS」と「ヴィジョン-S 02」というコンセプトをCESで発表し、同社がホンダと組んだアフィーラもセダンのコンセプトカーを2023年に見せたのは周知のとおり。ただ一方で、多数のプレーヤーがひとときは参入したロボタクシーから、GMとホンダは撤退している。
SEMAショーのようなカスタム&チューニングのクルマの側にも、変化が兆している。BEVの強大なトルク&パワーを1960~70年代の古式ゆかしいマッスルカーにインストールすべく、EVバッテリー&パワートレインが、ほぼボルトオンのDIYキットとして販売されている。GMやフォード、クライスラーといった往時のアメ車のラダーフレームがリビルドで手に入るので、新旧どちらかのICEを積むのも自由なら、あえてバッテリー&モーターを積んでみるのも自由という様子だ。
クォーターマイルを突っ走るか、峠でドリドリか、目指す走りの方向性は異なるとはいえ、昨年の東京オートサロンでトヨタGRがハチロクのEVカスタムを発表していたのと、洋の東西で奇妙にも軌を同じくする部分といえる。
ステアリングを握ってクルマを操っていることに価値を見い出すSEMAショー側の世界では、ハンズオフ機能やその先に続く自動運転への萌芽はいまのところ見られない。でも「移動を我がこととして思えるかどうか」、あるいは「移動を他人任せのものと考えないこと」に、この先のクルマもしくはクルマの未来がかかっていることが、様相は異なるが同じ会場で行われるふたつのショーを通して、わかる。
逆にいえば、歩きスマホや(自転車でもクルマでも)ながら運転は、テクノロジーやそれに対する意識を停滞させこそすれ、進化を促すことには程遠いのだ。