ミッドシップにすればなんでも速くなるわけじゃない
MRにするとなぜそれほど速く走らせることができるのか。一番大きな理由は「Z軸まわりの旋回モーメントを小さくする」ことができるためだ。最近はあまり使われないワードとなっているが、自動車工学的には、走りにおいてもっとも理想的なレイアウトだといえる。
Z軸まわりとは車体の重心を通る上下の軸(仮想軸)で、エンジンなどの重量物をZ軸の近くに配置することで回転(ヨー運動)を起こしやすくし、また収束もしやすくなる。その証拠に、F1を始め純レーシングカーはほとんどがMRレイアウトを採用している。MR化することで室内は狭く、2シーター化がほぼ避けられず、また荷室も制限されるので、乗用車としての実用性は著しく低下してしまうのが欠点だ。
また、専用のシャシーが必要になるのでコストも高まる。
古くはフィアットX1/9に始まり、トヨタMR-2やホンダの初代NSXなど、前輪駆動(FF)乗用車の量産エンジンをトランスミッションごとそのままミッドシップに横置きし、MRスポーツとして販売された例はある。しかしその走りは、本物のエンジン縦置きMRスポーツと比べると明らかにハンドリングのレベルが低かった。
ホイールベース内にエンジンが搭載されるので定義上はMRに分類はされたが、本質的にはバランスが悪く実用性も低いものとなっていた。
その理由はふたつあり、エンジンを横置きしたことで、どちらかというとリヤエンジンのRRに近い前後重量バランスで後輪左右の重量バランスも悪い。また、乗用車用ユニットでオイルパンもそのまま搭載したので、エンジンの搭載位置が乗用車のままで、結果として重心が高く、クルマのロールセンターと乖離したロール軸となってしまっていた。
このように、MRレイアウトにしたら何でもいいということではなく、MRレイアウトで向上する運動性能に見合うクルマを作らなければ成果としての速さは得られない。そういう面でも、シボレー・コルベットのMR化はいいお手本になったといえるだろう。
前後左右の重量配分を最適化し、重心を徹底的に下げ、X・Y・Z軸の交わりを重心近くに合わせる。その近くにドライバーが着座できるようなレイアウト。MRにはそれが求められているのである。