この記事をまとめると
■日産自動車と本田技研工業が経営統合の検討に関する基本合意書を締結
■日産が経営難になった理由のひとつとして軽自動車販売を始めたことが大きく影響している
■軽自動車販売から手を引く勇気が経営再建には必要だ
日産がここまで転落した背景
2024年11月23日、日産自動車と本田技研工業が経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結したことを発表した。これに先立ち、日産の経営悪化が報じられるようになり、外資に買収されるのではないかとの話が業界内を駆け巡った。
事実、今回のホンダとの経営統合も外資の買収への動きを察知して日本政府がお膳立てしたといった報道も相次いでいる。自社の将来を検討した結果というよりは、関係各方面のプライドのための経営統合ともいわれることもあるが、単なる「延命策」といわれないためにも、とくに日産の再生を願うばかりである。
かつて、「トヨタ対日産」ということがよくいわれた時代があった。
実際、筆者の居住する県では1980年代後半まで県内ではトヨタより日産のほうが販売台数が多かったといわれている。また、「販売のトヨタ」に対し「技術の日産」ともいわれており、クルマ好きは日産車に走る傾向にあった。1976年に筆者の家庭で初めてマイカーを購入するときに、父親は真っ先に日産車を検討しようとしたのだが、比較検討したトヨタ車を扱うトヨタ系正規ディーラーセールスマンが熱心に勧めてくるなか、日産系正規ディーラーはまさに殿様商売のごとく「ほしいなら売ってやる」みたいな対応(セールスマンによって違いはあるのだが)に父親も嫌気をさしてトヨタ車を選んでいた背景を覚えている。
日産の今日の苦況を招いた背景についてはさまざまな分析がなされているが、筆者はあえて「禁断」ともいえる軽自動車販売を始めたことも大きく影響していると考えている。
日産初といえる本格的な量販軽自動車は、2002年に登場した日産モコとなる。2001年にデビューした、初代スズキ・MRワゴンのOEM(相手先ブランド供給)車となっていた。
以降、軽乗用車のラインアップだけではなく、軽商用車もラインアップするようになった。本稿執筆時点では、軽乗用車としてサクラ、ルークス、デイズ、クリッパーリオが、そして軽商用車としてクリッパーバン、クリッパーEV、クリッパートラックがラインアップされている。ちなみに、クリッパーEVを除くクリッパー系がスズキからのOEMとなり、クリッパーEVは三菱からのOEM、そしてそのほかの車種は三菱との合弁会社で生産されている。
日産自動車は軽自動車の販売を始める前までは、それこそ「マーチからエルグランド、プレジデントまで」とワイドラインアップをまんべんなく売る総合メーカーということで、いまよりはるかにバランスよく販売していた。そのため、軽自動車を扱い始めた当初は、「軽自動車は2台売ったら1台分のマージン」などと、いたずらにセールスマンが軽自動車販売に走らないようにしていたと聞いている。
100万円前後の価格帯が主力といってもよかった当時の軽自動車は、とにかくセールスマンにとっては売りやすく、そのためセールスマージンなどに「歯止め」を設けないと、軽自動車ばかりを売るようになってしまうのである。ただ、前述した「歯止め」は早晩なくなったとも聞いている。
そもそもこのころはミニバンがいまよりもよく売れていた時代だったので、軽自動車販売も始まると、ディーラーのショールーム内もファミリームード溢れるカジュアルなものとなり、上級セダンに乗っていたユーザーのなかにはその変化について行けずに、トヨタの高額車(当時はトヨタ店やトヨペット店が専売とすることが多く、この両店はそれなりの雰囲気があった)や輸入車へ乗り換える人も増えていった。なので、一定価格帯以下の販売がメインとなってしまい、総合メーカーというイメージも薄れていくこととなった。
軽自動車がよく売れるのなら、薄利多売で数売って利益をあげればいいだろうとの話もあるが、軽自動車の場合はその後、購入したディーラーにおいて車検も含む点検整備や鈑金修理などのために入庫する人が目立って少ないのである。軽自動車ユーザーは経済合理性を重視して乗る人が多いので、新車購入後には格安車検業者などを利用し、ディーラーに入れるよりはメンテナンスコストを安く抑えようとするのである。
つまり、軽自動車は売り切りになることが多く、その後のサービス入庫による利益が、登録車よりも期待できないのだ。
販売時も利益だけではなく、その後のサービス入庫があまり期待できないという意味もあり、軽自動車は「薄利多売」ともいわれている。とにかく量産効果維持のために生産を続け、自社届け出(ディーラー名義などでナンバープレートだけつけること)して販売台数だけを稼ぎ、自社届け出車両が中古車市場に溢れてしまう。安易に手を出してしまうとメーカーもディーラーもひたすら体力を消耗していくだけとなるのだ。