この記事をまとめると
■ATは10速まで存在するがMTではせいぜい6速くらいまでしか存在しない
■高速燃費を改善するためにATは多段化されてきた
■MTを多段化すると変速操作が頻発するだけでなく最適なギヤを選ぶのも難しくなる
10速ATがあるのに対してMTはせいぜい6速
自動変速機(AT)は、多段化の一途をたどり、10速まで存在する。対する手動変速機(MT)は、せいぜい6速前後だろう。なぜ、10速MTは出てこないのか?
そもそもATは、2速とか3速からはじまって、その時代のMTは3速や4速で、手動のほうが段数は多かった。のちに高速道路が整備されると、ATは、まずオーバードライブというように高速走行時に使う上の段が設けられることがはじまった。理由は、高速燃費を改善するためだ。
そのATが、7速、9速、10速というように急速に多段化した背景にあるのはやはり燃費で、2000年以降にその傾向が顕著になる。理由は、欧州での二酸化炭素(CO2)排出量の規制が強まってきたからだ。
日本は、トヨタ・プリウスを筆頭にハイブリッド化で燃費を向上させようとしてきたが、欧州はそれを好まず、ディーゼルターボでしのぎ、ガソリンエンジンとの併用で対処した。そのため、変速機の多段化が重要度を増した。
また、欧州は日本に比べ、より高い速度で走る交通環境にある。多段ATは、電子制御で細かく自動変速することにより、エンジンがもっとも効率よく稼働する回転数をつなぐ走り方をさせることができる。
対して、MTは、多段化が進んでいない。9速、10速のような多段変速は、電子制御があってこその効果であり、人が自分で操作する場合、多段化すればそれだけ操作回数が増えて面倒であるだけでなく、最適な段数を選びそこなえば、それが上の段でも下の段でもかえって燃費を悪化させかねない。もちろん、上げすぎれば力が足りず加速が不十分になるし、下げ過ぎてしまえばエンジン回転数が高くなって騒音が増大し、快適さが損なわれる。
そのなかで、MTでより無駄な燃料消費を抑える対策としてあるのが、メーター内に変速の指示を表示する仕組みだ。走りに不足はなくても、より燃費のよい走行となるよう、メーター内にアップシフトの矢印表記がされる車種がある。逆に、かえって運転者がアクセルペダルを踏み過ぎてしまうような上のギヤの場合は、ダウンシフトを促す下向きの矢印を出す。変速段数の多少ではなく、運転の仕方でより燃費を改善する策だ。
もし、MTで多段化するとしたら、変速時機を誤らない運転の技量やそれを実行するための指示の表示、そして頻発する変速操作を厭わない気持ちが試されることになるかもしれない。