この記事をまとめると
■直6エンジンとV12エンジンは究極のエンジンと呼ばれていた
■両エンジンは構造上からバランスがほぼ完璧に取れるので振動を抑えられる特徴があった
■いくら完全バランスの直6およびV12エンジンでもモーターに振動や静粛の面でかなわない
直6エンジンが崇拝された理由とは
直列6気筒エンジンは、それをV字形に組み合わせたV型12気筒エンジンとともに、完全バランスがとれるとして、究極のエンジンに価値づけられてきた。
それ以外のエンジンは、単気筒(1気筒)はもちろん、2気筒、3気筒、4気筒、5気筒と、いずれも運転中に振動を伴う。理由は、1回転するあいだの燃焼時期が異なるので、それが振動として明らかになる。これに対し直列6気筒(およびV12)は、燃焼によりピストンを押し下げる力による振動を打ち消すように、ほかのもう1気筒のピストンが作動するので、ほぼ振動は抑えられ、ゆえに完全バランスとされる。
また、1気筒の排気量は500ccを上限とする見方が多く、たとえば総排気量3000cc(3リッター)の大排気量エンジンの場合、6気筒だとちょうど1気筒分が500ccになる。このため、大排気量エンジンは6気筒以上の多気筒エンジンになっていく。こうして上級車種や高級車は、6気筒エンジン以上の多気筒エンジンになり、それは上昇志向の思いを満たす諸元(スペック)でもある。
とはいえ、直列6気筒(およびV12)は、エンジン全長が長くなるため、衝突安全性能の向上が求められると、前面衝突の場合、衝撃を吸収する空間が足りなくなる懸念が出てきた。メルセデス・ベンツも、1990年代後半には、直列6気筒からV型6気筒とし、エンジン全長を短くした。
それが、2020年のSクラスで、直列6気筒を復活させてきたのである。そのガソリンエンジンは特別仕立てで、モーター駆動とターボチャージャーとスーパーチャージャーを装備し、あたかもモーター駆動のように加速させるエンジン特性になっていた。
つまり、電動化の時代に向け、エンジンにもモーターのような加速を与えることで、よどみなく滑らかに加速していくモーター特性を顧客に疑似体験させる仕様と考えられた。それには、完全バランスの直列6気筒である必要がある。振動の残るV6では不十分だ。もちろん、衝突安全性能確保のため直列6気筒でありながら、全長を短くする設計が施されている。
これをきっかけに、直列6気筒への見直しが広がり、たとえばマツダはラージ商品群のために直列6気筒エンジンを新設計した。上級車種展開を強化するに際し、高級さを求めたエンジン戦略だろう。
とはいえ、メルセデス・ベンツはもちろん、ロールスロイスでさえEVへの道筋を歩みはじめている。たとえ完全バランスによる高級さで憧れさせた直列6気筒エンジンでも、もはや上質さや動力性能でモーターにはかなわなくなっている。しかも、ロールスロイスが求め続けた静粛性を誇るモーターに勝るエンジンはないだろう。
PHEVであっても、モーター走行を主軸とし、発電用エンジンが作動してもモーター走行感覚を損なわない特性にできる時代となった。直列6気筒であることの価値は、失われつつあるといえるだろう。