未来の移動はeVTOL機だけで解決しない
すでに、ホンダやトヨタでは、より未来志向の空飛ぶクルマ「eVTOL(イーブイトール)」の開発を進めていることが発表されている。
eVTOLとは、electric vertical takeoff and landingを省略したもので、和訳すると電動垂直離着陸機となる。騒音の少ない電動で、なおかつ滑走路の不要な垂直離着陸が可能な機体となれば、まさに空飛ぶクルマから想像するようなモビリティといえる。
しかしながら、いまeVTOLと表現したときにポイントとなるのは、電動や垂直離着陸といったメカニズムではないといえるだろう。
冒頭に触れた、SkyDrive社の空飛ぶクルマは乗員3名で設計されているが、そのうちひとりは操縦者(パイロット)であり、乗員は2名となっている。その意味では空飛ぶタクシーといったイメージが近い。
一方、ホンダなどが開発しているeVTOLにおいては、パイロットの存在は考えられていない。完全自動飛行が可能で、自動車と航空機の間に位置するようなモビリティとして想定されている。
なぜなら自分で空飛ぶクルマを運転(操縦)するには、なんらかの航空機に関する免許が必要になることが十分に考えられるからだ。新規に免許を取得することが要求されては、モビリティを利用するハードルが高くなり普及しないのは自明だ。あくまで100%自動操縦であり、ユーザーは純粋な乗客として操縦には関与しないで安全に飛行できることが、現時点で開発の進むeVTOLの目指す姿といえる。
たとえば、ホンダの描くeVTOLのある世界とは次のようなものだ。
ビジネスミーティングに向かうとしよう。自宅から市内にあるeVTOLのステーションまでは自動運転車で移動、eVTOLに乗って空港へ向かい、そこからはホンダジェットに乗って数百km先の目的地近くの空港まで飛ぶ。そこからミーティング場所までは先ほどの逆に、eVTOLと自動運転車を乗り継ぐといった具合だ。
こうした移動スケジュールを、ひとつのアカウントで取りまとめて管理することで時間の無駄は最小限となることが期待できる。なおかつAIとアカウントを連携させておくことで、車内や機内で統一したコンシェルジュ的サービスを受けることができるというのが、未来のモビリティにおけるビジネスモデルとなるだろう。
すでに自動運転車と航空機というモビリティは存在しているのだから、eVTOLを実現して、上記のモビリティサービスをいち早く提供できるようになった企業・ブランドだけが大変革期の先に生き残れる……のかもしれない。
一方、eVTOLが普及するようになってもそこに趣味性を求めるユーザー層は存在するだろう。2023年のジャパンモビリティショーにてスバルが公開した「AIR MOBILITY CONCEPT」は、そうした好例だ。同社のルーツである中島飛行機のヘリテージを感じさせるスバルらしいスタイリングは、総合モビリティサービスの一部といったイメージよりも、個人所有を想像させるものだった。
はたして、eVTOLの普及期はいつ頃やってくるのか。2020年代のうちは難しいかもしれないが、2030年代には自動運転による陸と空の移動サービスがローンチされていると期待したい。