この記事をまとめると
■トラックドライバーは運転だけでなく荷積みや荷降ろしなども行う
■付帯業務はトラックドライバーが長時間労働を強いられる原因のひとつ
■三菱重工とキリンが荷積み・荷降ろし自動化に関する共同実証を実施
荷役作業の自動化を目指す
物流停滞が懸念され、各所で解決の糸口が模索されている2024年問題。これは、2019年に改正された労働基準法で時間外労働の上限が制定された際、自動車運転の業務などについて5年間適用が猶予されたものの、2024年にその期限を迎えることに端を発している。具体的には、自動車運転業務従事者の残業時間上限を原則として月に45時間、年間では360時間にしようというものだ。特別条項付き36協定を締結する場合でも、年間の時間外労働の上限は960時間以内に抑えなければならないのである。
この背景には、もともと今回定められた上限を大幅に超過する時間外労働が、トラックドライバーに課せられていたことを意味する。ゆえに、彼らの労働環境の改善を意図したものであることは間違いない。しかし、労働時間を強制的に短縮するのであるなら、それに応じた新たな労働力を投入しないと、現状の物流量を処理するのは難しくなる。それが、2024年問題による物流停滞の懸念になっているわけだ。
そもそも、トラックドライバーの労働時間が長くなっている要因のひとつに、荷積み、荷降ろしなどの付帯業務に時間を取られるという問題がある。だからといって、倉庫作業員にこれらの業務を振り当てようとしても、こちらも人手が足りずに対応が難しい状況にある。それなら、これらの作業を自動化することで問題を解決できる可能性が出てくる。
そう考えて今回、三菱重工業(以下、三菱重工)とキリンホールディングス(以下、キリン)がタッグを組み、トラックの荷積み、荷降ろし自動化に関する共同実証を行うことになったのだ。両社はすでに2022年11月から、自動ピッキングソリューションの共同実証を行なっていた。この共同実証背景には、商品を倉庫や工場内の保管場所から取り出し、配送先ごとに仕分けるピッキング作業が、重筋作業として作業員の負担が大きいことや、誤作業のリスクが発生するなどといったことがある。
これらの問題を解決するべく、三菱重工が研究開発を進める「ΣSynX(シグマシンクス、さまざまな機械システムを同調、協調させる標準プラットフォーム。機械システムの知能化により最適運用を実現するデジタル・テクノロジーを集約している)」を導入し、自動化、知能化を図ったわけだ。
この経験を踏まえて、今回実施する共同実証においても「ΣSynX」を使用して検証を行う。その内容は、以下の3点である。
・入出庫ソリューションの導入を想定した、有人作業を含めた運用プロセスの導出
・トラックへの荷積み・荷降ろし用無人フォークリフト導入を想定した、有人作業を含めた運用プロセスの導出
・有人フォークリフトと無人フォークリフトの協働作業時における、安全に関する考え方・ルール・運用条件などの導出
実証場所は、三菱重工の横浜製作所・本牧工場内にある「ものづくりの共創空間Yokohama Hardtech Hub(YHH)」の「LogiQ X Lab(ロジックス・ラボ)」や、キリンのロジスティクスの拠点が使用される。ここで、三菱重工が開発中の新型AGF(Automated Guided Forklift、無人フォークリフト)を活用し、トラックの荷降ろしから荷積みに至るまで、一連の荷役作業の自動化を図るのだ。具体的には、
・倉庫作業での適切な荷揃え
・配置替えや保管状況に応じた走行ルート変更
・高効率の保管方法
などが挙げられる。柔軟な自律運転と安全な人機協調作業の実現を推進することで、荷役作業の改善と「2024年問題」の対応に繋げるわけだ。
共同実証は、2026年3月まで行う予定とのこと。この実証が、運輸業界・物流業界の人手不足解決の切り札になることを期待したい。