BMWの理論では直6がクルマ用のエンジンとしてはベスト
では、なぜBMWはここまで直列6気筒にこだわるのか? 逆の見方をすれば、直列6気筒の長所と短所は何か、という話でもある。
短所に関しては、エンジン全長が長くなることで搭載する車両のエンジンルームにそれなりのスペースが必要になること、クランクシャフトが長くなることで重量が増えること、などが挙げられるが、これらについてはFR車に搭載、軽量化技術をふんだんに投入することなどで解決。少なくとも、N52型直列6気筒を搭載する上で、パッケージングとして見た車両側に問題点を残すことはなかった。
では、長所は何か、という話になるが、これはBMWの直列6気筒に対して歴史的に使われてきた形容語句「シルキーシックス」の表現にすべてが集約されている。絹のようにしなやかでスムースな肌触り、そんな回り方をするシリンダーレイアウトが直列6気筒であるという主張、そして評価である。
直列6気筒のクランク軸位相は120度である。これをシリンダーに置き換えると1番と6番、2番と5番、3番と4番のピストン/コンロッドが同じ位置(角度)にあることになり、慣性力は1次、2次、偶力もキャンセルされることから、ほかのシリンダーレイアウトにはない振動上の利点をもつことになる。理論的には、90度軸位相の直列8気筒エンジンも同様にスムースな特性となるはずだが、エンジン全長、重量など実用上の点から、もはや非現時的なシリンダーレイアウトであることは明らかだ。
BMWは、FR方式の市販乗用車に搭載し実用化(商品化)する上で、ネックとなる搭載スペースと重量の問題(軽量化しても全長が長いぶんだけ重心点は前方に移動するが)をクリアすれば、理想的な特性が得られるシリンダーレイアウトとして、歴史的に直列6気筒エンジンを採用し続けてきた理由はここにある。
余談だが、70年代終盤、BMWが意欲的に開発したミッドシップカー「M1」のエンジンも直列6気筒3453ccのM88型だった。4バルブDOHCヘッドをもつスポーツカー/コンペティションカーでの使用を前提としたエンジンだったが、やはりそのスムースなまわり方には定評があった。ちなみに、ボア93.4mm×ストローク84mmのシリンダースペックだったが、このエンジンは2気筒を切り落として2302cc(直列4気筒なので当然クランクシャフトは新規設計)のE30型M3用のS14型エンジンとして再活用されている。
パッケージング、効率の問題などから、6気筒はすべてV型レイアウトという認識になっていた当時の「常識」にあって、「いやいやそんなことはない」と、最新のテクノロジーで作り上げた直列6気筒のN52型は、まさにBMWの威信、自信を如実に体現する「シルキーシックス」の直列6気筒エンジンとしてひとつの完成形に達していた。