確かにトヨタの技術を使っているが……スバルの独自性たっぷりだった! 待望のクロストレックS:HEVに搭載されるストロングハイブリッドシステムを詳しく解説!! (2/2ページ)

スバルらしさは健在

 冒頭で紹介したように、これまでクロストレックは2リッターマイルドハイブリッドを基本としてきた。より燃費に有利なストロングハイブリッドをせっかく開発したのに、ここで2.5リッターへとエンジン排気量を増やしてしまうことを不思議に思うかもしれない。これには、ちゃんと意味がある。

 一般論として、エンジン熱効率を高めるには圧縮比よりも膨張比を大きくすることが有利である。標準的なオットーサイクルで圧縮比=膨張比であり、高膨張比のエンジンについては、ミラーサイクルやアトキンソンサイクルと呼ぶことは、聞き覚え・見覚えがあるだろう。

 高膨張比サイクルのウィークポイントとして、熱効率は有利でも出力的には不利になる点が挙げられる。シリーズ・パラレルハイブリッドシステムを構成するにおいて、2リッターのまま高膨張比領域を拡大すると必要な出力が求められないとスバルのエンジニアは判断した。そこで、2.5リッターエンジンとの組み合わせという結論に至ったという。

 ただし、上級モデルにおいて搭載している2.5リッターエンジンをそのまま積んだわけではない。エアコンは電動化されているし、ハイブリッドの発電用モーターがあるのでジェネレーターは不要。ウォーターポンプ以外はベルトで駆動する補機類が存在しないという専用ユニットになっている。さらに、エンジン上部にスペースを確保しやすいという水平対向エンジンの特徴を活かして、インバーターなどからなるパワーコントロールユニットを配置しているのもスバルらしい設計といえる。

 ところで、スバルのストロングハイブリッドについて「トヨタの技術を利用している」という紹介が定番化している。たしかにエンジンとモーターの出力などをミックスする動力分割機構を採用した「シリーズ・パラレルハイブリッド」のメカニズムは、トヨタの技術や知見を利用しているのは事実だ。しかし、ハイブリッドユニットはスバルが内製しているし、メカニズムの骨格となる領域でもスバル独自の部分は多い。

 たとえば、トヨタでフロント駆動を基本としたハイブリッドシステムでは、四輪駆動とする際に後輪用に独立したモーターを配する「e-Four」となることが多い。プロペラシャフトのない電気式4WDが基本となっている。

 電気式4WDにもメリットはあるが、スバルのアイデンティティである「シンメトリカルAWD」においては、常に後輪を駆動していることが重要であり、そのためには前後をプロペラシャフトでつなぐ機械式にすることがマストといえる。

 クロストレックの採用したストロングハイブリッドは、駆動用モーターをトランスアクスル内に収め、そこから前後輪に駆動力を分配する構造を採用している。しかも、前後駆動配分を担うユニットは電磁クラッチを使ったストロングハイブリッド専用品を開発したほど、シンメトリカルAWDの本質にこだわったハイブリッドとなっているのが特徴だ。

 ちなみに、電磁クラッチ自体は異なるが、仕組みとしてはWRXなどで知られるスポーツAWD「DCCD」に似た構造になっているというのも、スバリストには刺さるエピソードかもしれない。

 新開発されたストロングハイブリッド用トランスアクスルの型式は「TH2B」となっている。過去にアメリカでクロストレック(当時の日本名はXV)にプラグインハイブリッドを設定した際に、じつは2モーターハイブリッドをスバルとして初採用しているのだが、その際に搭載された2モーターハイブリッド・トランスアクスルの型式が「TH2A」だった。

 つまり、2代目ストロングハイブリッドという意味ももっている。完全新設計のストロングハイブリッドであっても、過去にプラグインハイブリッドを開発したことを忘れていないというのも、歴史を大事にするスバルらしいところだ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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