鳥居ウイングはまさかのトランクを開けるため!? 常識外のロングノーズにセールスマンも唖然とした「ダッジ・チャージャー・デイトナ」という残念なクルマ (1/2ページ)

この記事をまとめると

ダッジ・チャージャー・デイトナはNASCARでの勝利のための進化が生んだモデル

■巨大なウイングとノーズコーンが特徴でのちにプリムス・ロードランナーに受け継がれる

チャージャー・デイトナは高値で取引されておりHEMIエンジンのMTモデルはとくに希少

NASCARでの勝利を狙った大胆エアロ

 アメリカのモータースポーツはルールがわかりやすいのが定説です。たとえクルマを運転したことがない人でも、レースを存分に楽しめる気配りというやつ。また、現在のNASCARがストックカーレースと呼ばれていたころは、ひと目でマシンの違いがわかるため「オレと同じクルマが走ってる!」などとエキサイトできたものです。

 ストック、すなわちショールームに飾ってあるまま、ノーマル状態でのレースというのはクルマの売り上げに直結したわけで、そりゃあメーカーも肩入れすることしきり。1969年当時のクライスラーもヒートアップした挙句、ライバルメーカーはおろかディーラーのセールスマンまでも絶句させたのでした。

 ストックカーで戦われたNASCARも1960年代も後半を迎えると、エンジンパワーの増大に伴って最高速は190mph(約305km/h)を越えることがしばしば。サイドバルブやOHVの古臭いエンジンながら、排気量が5~6リッターはあった時代です。

 1968年になると、クライスラーは若者向けブランドのダッジから、チャージャー500を投入。それまで参戦していたコロネットというノッチバックモデルから、いくらか空力に優れるであろうハッチスタイルとしていたのがポイント。ですが、いくらボディ後部がスラントしたからといって、いきなりダウンフォースが倍増するわけでもなく、初年度の成績はまったく振るわなかった模様。

 レースで成績が出なかったのは、最高速付近での挙動がシビアだったことが原因と判明し、ダッジ部門のエンジニアはチャージャー500に空力的付加物、つまりはウイングやスポイラーを追加したのでした。で、できあがったマシンはNASCARのサーキット、デイトナの名が付けられたのですが、これを見たセールスマンは開いた口がふさがらなかったそうです。

 なにしろ、フロントに長さ18インチ(約460mm)のノーズコーン、テールには高さ23インチ(約580mm)のあたかも鳥居のようなウイングですから、「ちょっと待って」となったことご想像のとおり。空力といっても1960年代末の知見では現在と違って、わりと大雑把(笑)。ウイングの高さにしても「トランク開けるのにはこれくらいあれば十分でしょ」的な設定ですからね。

 また、セールスマンが戸惑ったのは延長されたノーズも同様で、ただでさえ駐車が苦手なアメリカ人にとって、このボディは悪夢に等しいと(笑)。実際、ディーラーにまわされてきたデイトナをノーマルのノーズに戻して売られたクルマもあるとのことで、いまでは考えられない荒業といえるでしょう。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

文筆業

愛車
三菱パジェロミニ/ビューエルXB12R/KTM 690SMC
趣味
DJ(DJ Bassy名義で活動中)/バイク(コースデビューしてコケまくり)
好きな有名人
マルチェロ・マストロヤンニ/ジャコ・パストリアス/岩城滉一

新着情報