この記事をまとめると
■最近のクルマには「タイヤディフレクター」と呼ばれる空力パーツが装着されている
■タイヤが受ける空気抵抗を小さくするために取り付けられている
■タイヤディフレクターの装着効果は明確な数値で示すことはむずかしい
フェンダーについてる謎の樹脂の役割
クルマのパーツで「マッドフラップ」「マッドガード」はよく知られた存在だ。日本語にすれば「泥よけ」となり、タイヤが跳ね上げる路面の泥水をここで受け止め、直接後方に飛ばないようにするパーツで古くからあり、改めて説明しなくても誰もがその役割や名称を知る存在といってよいだろう。
このマッドフラップやマッドガードはタイヤの後方に取り付けられるが、最近はタイヤ前側のフロア下面に取り付けられるマッドフラップやマッドガードのようなものを目にすることがある。これはいったい何なのか、何のために取り付けられているのか、気になっている人も少なからずいることだろう。
これは「タイヤディフレクター」と呼ばれるもので、走行中にタイヤが受ける空気抵抗(路面とフロア下面間を流れる空気の圧力)を減少させるために設けられた、いわゆる空力パーツと考えてよいものだ。空力パーツといえば、エアダムやスポイラー、ウイングなどを思い浮かべがちだが、フロア下面に取り付けられたこのフラップのようなものも空気を整流する働きをもつだけに、立派な空力パーツと見なせるといえよう。
さて、これがどんな働きをするのか、車両下面(路面とフロア下面間)の空気流を考えてみよう。走行中、車両の前面の空気は、車両前部の形状によって上下左右に振り分けられることになる。このうち、車両下方に振りわけられた空気流は、本来そこにある空気と一緒になって車両下部(路面との間)を流れることになる。低速走行時には無視できる空気の圧力も、高速走行になると2次的に大きくなり、それが回転するタイヤ(とくに前輪)に直接当たって大きな抵抗となってしまう。いわゆる空気抵抗だ。
このタイヤが受ける空気抵抗を小さくするために取り付けられたパーツが、タイヤディフレクターなのだが、タイヤに当たる空気流を変えるため、同時にホイールハウス内の空気流も変える働きをもっている。ホイールハウス内は、高速回転するタイヤによって圧力が高くなりそれが抵抗となるため、その圧力をどう下げる(逃がす)かも、空力改善にかかわる大きなポイントになっている。
では、タイヤディフレクターによる空力改善の効果はどの程度かといえば、Cd値(空気抵抗係数)に表れる向上値(低下値)は目立つものではない。というより、現代のクルマの空力特性は、すでにいろいろな要素が検討されたことで、Cd値は0.30未満、場合によっては0.25前後にまで煮詰められている。こうした車両で、タイヤディフレクターの装着効果がどの程度なのか、明確な数値によって示すことはむずかしいかもしれない。
現代の空力改善は、Aピラーの傾斜角度やドアミラーの形状といった細かな要素を積み重ねたもので、空力にかかわるすべての要素を総合的に見直すことで、初めて改善が可能となるレベルにまで達している。こうした意味では、フロア下でタイヤに当たる空気を整流するタイヤディフレクターは、たかがディフレクター、されどディフレクターといった存在かもしれない。空力パーツ、決して軽く見るなかれ、である。