「あぁついに新車を手に入れた」喜びを実感したかつての新車の匂い! いまのクルマから消えたワケは危険な香りだったから

この記事をまとめると

かつての新車には新車ならではの匂いがした

■新車の「匂い」は揮発性有機化合物が揮発して発するものだった

■最近の新車は揮発性有機化合物が発生しにくい素材を使用しており新車の匂いは薄い

新車には新車特有の匂いがしていた

 新築の家に足を踏み入れたとき、新しい洋服に袖をとおすとき、子どものころ、親に買ってもらった野球のグローブを手にしたとき、新築、新品特有の匂いに心ときめくものだ。それはクルマも同じ。新車のドアを開けて乗り込めば、新車ならではの臭いとともに、新しい愛車との付き合いが始まる……というのがこれまでの常識だった。中古車では決して得られない、新車を買った人だけが味わえる新車らしさがそこにある。

 筆者がいまでも覚えているのは、マセラティ・ビターボを新車で購入し、当時、東京・世田谷の等々力にあったガレージイタリアで引き取ったときのことだ。なんとも甘い新車の匂いに、それまで知る日本車やドイツ車とは違う異国を感じ、思わず息を深く吸い込んだものだった。

 しかし、最近のクルマはどうだ。たしかに新車に乗れば、新車っぽい匂いはするものの、かつてよりその匂いは抑えられているではないか。

 それには理由があった。そもそも新車の匂いは、車内を構成するファブリック、レザー、樹脂、シート内部のウレタン、使われる染料、接着剤や可動部分の油脂などが混ざり合って揮発し、発する匂いだといわれている。つまり、クルマの内装の素材や接着剤に含まれている揮発性有機化合物(VOC)が原因なのである。VOCは人体に影響し、健康被害を及ぼす住宅のシックハウス症候群と同じような悪さ=シックカー症候群を発症させてしまう可能性があるとされている。

 そこで、シックカー問題を解決するため、日本では厚生労働省が2007年以降に発売される新車にシックハウス症候群に対するものと同じ指針をクルマの室内にも適用する運びとなり、自動車メーカーはそうした物質の使用を控えるようになったのである。

 もっとも、新車の匂いは時間がたつにつれなくなるもの。新車臭が好きな人にとっては残念だが、人によっては体調不良を起こしかねない匂いの成分だっただけに、新車時の臭いとシックカー症候群が気になるのであれば、十分な換気が必要になる(消臭剤で新車臭を消しても意味なし)。運転中、シックカー症候群で気分が悪くなり、それが原因で事故を起こしたら大変である。

 ただ、新車の匂いを喜びとする古い(!?)自動車ファンも少なくなく、たとえばロールス・ロイスは1965年シルバークラウドから抽出されたといわれる新車の香り(匂いではない)を新車に用い、新車に香りづけしているという話もあり(未確認)、さらに誰もがそれらしい香りの成分を買うことができるという。ロールス・ロイスじゃないクルマにシルバークラウドの香りをつけてどうなるものじゃないと思うのだが……。

 いずれにしても、かつての新車にあった臭いには、体質によってけっこうヤバめの成分が含まれていたことになる。それで健康被害にあった人を筆者は知らないが、四方八方からのコンプライアンスだらけの時代、自動車メーカーとしても健康被害をおよぼす可能性のある成分を含む素材、材料を使わなくなるのは当然で、結果、新車でも強い新車臭が薄れた(揮発性有機化合物VOCの使用を控えたため)といえるだろう。見方を変えれば、新車臭が薄まったことで、新車の車内がより健康的になった……ということかも知れない。

 それでも、新車に乗り込めば、長く乗り続けたクルマやレンタカーにある、乗る人の体臭やホコリ臭、エアコンのイヤなカビ臭、芳香剤臭など一切ない、新車ならではの清々しい空気が充満しているはずで、新車を手に入れた満足感に浸れることは依然、間違いないはずだ。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

新着情報