この記事をまとめると
■現在の軽自動車のエンジンは直列3気筒が主流になっている
■6気筒エンジンなどで多気筒化をするとコスト上昇が見込まれる
■1気筒の数値が小さくなると低回転域で高出力を得にくくなり回すと燃費も悪化する
軽自動車はなぜ4気筒までしか存在しない?
現在、軽自動車のエンジンは、自動車メーカーの別を問わず、ほぼ直列3気筒に統一された。しかし、かつては直列(並列)2気筒や直列4気筒など、車種やメーカーによる違いがあった。
一般に、上級車種になるとマルチシリンダーといって、多気筒エンジンが重宝される。その点、エンジン排気量が660ccと小さな軽自動車では、直列4気筒というのがマルチシリンダーといえなくもない。
かつて、スバルR1やステラは、他社が直列3気筒化を進めるなか、直列4気筒を堅持し続けた。登録車では水平対向4気筒エンジンにこだわるスバルが、軽自動車においても多気筒であり続けることでクルマとしての上級さを保持しようとした表れだ。
しかし、そこでスバル独自の軽自動車開発は終わりを告げた。現在はダイハツから供給を受け、自社銘柄として販売するので、結果的にエンジンは直列3気筒となっている。
しかしなぜ、直列4気筒はもとより、6気筒や8気筒ではないのか?
一例として、売れ筋ナンバー1であるホンダN-BOXのエンジン諸元を見ながら検証してみる。
ボア×ストロークは60mm×77.6mmだ。これは、シリンダー内径(ピストン頭頂部の直径)が6cmで、ピストンが上下する行程(ストローク)が8cm弱であることを意味する。これにより、1気筒あたり219ccの排気量と計算でき、3気筒で657.89ccとなって、既定の660cc以内に収まっている。
これでDOHC4バルブエンジンを作るとなると、吸排気バルブの傘径は2cm前後の小さな形になる。
660ccの枠を超えず、4気筒や、さらに上の気筒数にすれば、シリンダー内径はもっと小さくなり、吸排気バルブの寸法もあわせて小さくなって、作るのに手間がかかる。それだけでなく、組み立てるにも部品点数が増える分、余計な時間を要し、それらはすべて原価の上昇につながる。
性能面では、たとえば6気筒にしたら、1気筒分の排気量は3気筒の半分しかなくなり、1回の燃焼で得られる出力は小さくなる。そこで、発進や加速の出足が鈍くなる。なので、総排気量としては同じ660ccでも、回転を上げ6気筒を総動員しなければ力強さは得にくい。結果、運転者は余計にアクセルペダルを踏むことになり、燃費は悪化する。
運転だけでなく、じつはエンジンが稼働する際に注目すべきが摩擦損失で、摩擦損失はエンジン効率(一例として燃費)に大きく影響を及ぼす。摩擦損失の割合は、使ったエネルギーの5~10%といわれる。数字に幅があるのは、気筒数や摩擦低減技術の採用如何などによる。
気筒数が増えれば、バルブの数はもちろん、カムシャフトやクランクシャフトの摺動部が増え、そのぶん、摩擦損失の増加につながる。つまり、多気筒エンジンは燃費悪化の要因のひとつといえるのだ。
燃焼や性能を考えたとき、自動車用エンジンは一般に、1気筒当たりの排気量は500cc前後が最適の上限といわれる。このため、排気量2リッターエンジンなら4気筒以上、3リッターエンジン以上では6気筒以上の排気量であることが望ましい。
軽自動車には660cc(0.6リッター)という排気量の制約があるので、多気筒化するより、少ない気筒数で、適切なトルクと燃費の調和をはかることが、環境対応だけでなく、加速の快適さにもつながることになる。