ステップワゴンの存在が偉大すぎてヒットに至らず
しかし当時、S-MXに何度も試乗し、楽しんだ経験からいえば、S-MX最大の魅力は4人乗りの前席ベンチシート&コラムシフトによる、車内のマイルーム化にあった(のちに5人乗りの前席セパレートシートも用意)。
前席のベンチシートでカップルが肩を寄せ合うラブラブな乗車が可能になるだけでなく、後席300mmのロングスライドによって、後席が足もと広々のフカフカなラブソファになり、さらに前後席のフルフラットアレンジによって、後席のシートバックをやや立てれば後席がリラックスカウチソファとして使えほか、車内のセミダブルベッド化が可能だったのだ。当時のホットドッグプレスでは「“どこでもラブホ”になる夢のクルマ!!」ともいい放った記憶がある。
しかも、ちょうどいいところにティッシュボックス置き場があり、ホンダのアクセサリー部門のホンダアクセスが用意したオプションのカーテン=プライバシーシェードには、アレを忍ばせておく小さなポケットまで付いていて、気が利いていた。開発陣の遊び心、裏機能満載だったというわけだ(!?)。
そんな「恋愛仕様」のS-MXのワル版といえるローダウンバージョンは、ローダウンサスペンションによって全高が15mm低く、カスタマイズのベース車としても最高だったのである。
で、その走りについてだが、初代ステップワゴンをベースにしたこともあり、乗り味はほぼステップワゴン。誰もが乗りやすいクセのないドライブフィールが特徴だ。ただし、ローダウン仕様になるとガチッとした硬さのある乗り心地を示し、ワルなクルマを求めるユーザーの期待どおりだったともいえた。
もっとも、ローダウン仕様でもパワーステアリングはごく軽く扱いやすく、標準車、ローダウン仕様ともにコンパクトなボディサイズもあって、扱いやすさは文句なし。恋愛の達人にしてクルマの運転は初心者……というホットドッグプレス世代の男子にもうってつけだったのである。
もし今、ステップワゴンの2列シート仕様の令和のS-MXが登場したとすれば、アウトドア、車中泊ブームもあって、けっこう注目されるんじゃないかとも思えるのだが、当時は、ターゲットユーザーが絞られていたこともあり、爆発的なヒット作とはならなかったのも事実。2002年までの約6年間に約16万台を販売し、生産終了。後継車はなかった。
その理由は、ベース車となった兄貴分のステップワゴンの存在だ。同じようなパッケージなら、より室内が広く、3列シートがあり、大人数が乗れて、しかも価格も大きく変わらないのであれば、ステップワゴンでいいじゃない……という空気が、ファミリー層はもちろん、空前のステップワゴン人気に乗じてカップルズカーで十分なはずの若者にも浸透してしまったからだと考えられる。
とくに、2001年に2代目ステップワゴンが登場し、一層の話題をさらったことが、S-MXの存在価値を急速に薄めてしまったようだ。
現在、中古車市場では数が少なく価格は高騰気味。数年前に多くあった40~50万円の相場から、今では70万円台~120万円台の高値が付けられている。