「FR」「直6」「8速AT」と鳴り物入りで登場のになんで売れない? CX-60が販売不振に陥るワケ (2/2ページ)

CX-5に対してのアドバンテージがない

 そこでCX-60とCX-5を比べると、全長はCX-60が165mm長いのに、車内の広さはあまり変わらない。たとえば身長170cmの大人4名が乗車したとき、後席に座る乗員の膝先空間は、両車ともに握りコブシ2つぶんでほぼ等しい。CX-60の全長がCX-5に比べて165mm伸ばされた内、100mm以上は後輪駆動の搭載により、冒頭で述べたボンネット部分の拡大に費やされたからだ。

 そしてCX-5に直列4気筒2.2リッタークリーンディーゼルターボを搭載するXDスポーツアピアランスは、BOSEサウンドシステムなどを標準装着して価格は390万600円(2WD)だ。対するCX-60は、人気の高い直列6気筒3.3リッタークリーンディーゼルターボを搭載するXD・Lパッケージが422万4000円(2WD)になる。CX-60にBOSEサウンドシステムをオプション装着して、CX-5XDスポーツアピアランスと装備の水準を合わせると合計430万6500円に達する。

 このように同等の装備を備えた状態で比較すると、CX-60の価格はCX-5に比べて約40万円高い。その代わりCX-60のディーゼルは直列6気筒3.3リッターで動力性能が高く、後輪駆動の採用でスポーティな運転感覚も味わえる。

 それでも実用的にはCX-5で十分と考えるユーザーが多い。CX-5は前述のとおり全長が適度な長さで車内は広く、2.2リッターディーゼルの走りも満足できるからだ。直列6気筒エンジンと後輪駆動に価値を見い出せないと、CX-60はCX-5に比べて価格が割高で、売れ行きを低迷させた。

 またCX-60は、峠道などでは機敏によく曲がるが、乗り心地は硬く感じられる。トルクコンバーターを採用しない8速ATは、走行状況によっては変速ショックが大きく思える。そして乗り心地や変速ショックは感覚的な性能だから、インターネットなどで「硬くて違和感がある」と話題になると、そこが過剰に意識されやすい。

 このほかCX-60とCX-80の投入順位も悪かった。まず先にCX-80を投入して、後輪駆動のプラットフォームを使った高級SUVに位置付け、それに続いて同じメカニズムを使用したショート版としてCX-60を発売すべきだった。CX-60の内外装をさらにスポーティに作り込めば、短いボディと相まって、乗り心地が硬めでも不自然な印象は抱かれない。CX-5とのコンセプトの違いも曖昧にならず訴求できた。

 開発者は「その方法は有効だったと思うが、実際には開発された順番で、CX-80の前にCX-60を投入した」と述べた。このようにCX-60は、さまざまな理由に基づいて売れ行きを下げた。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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