この記事をまとめると
■昔のクルマには伸び縮みするアンテナがついていた
■FM電波を効率よく受信するために理想的なアンテナ長は75〜100cmくらい
■近年はコネクテッドカーなどの登場で通信の重要性が増してきている
アンテナは長ければいいってものではない
かつての自動車には、まるで釣り竿のように伸び縮みするロッドアンテナが付いていた。しかし、現代の自動車では短いシャークフィンアンテナや短いポール型アンテナが主流となっている。一見すると受信性能が低下しそうな気もするが、実際にはより優れた技術によって、コンパクトなアンテナでも十分な性能を確保している。その秘密に迫ってみよう。
<アンテナの基本原理と長さの関係>
電波を効率よく受信するためには、アンテナの長さが重要な要素となる。理想的なアンテナの長さは、受信したい電波の波長の4分の1とされている。たとえば日本で一般的なFMラジオの周波数帯(76〜95MHz)の場合、波長は約3〜4mであり、理想的なアンテナ長は75cmから1m程度となる。これが、かつての自動車に長いアンテナが必要とされた理由である。
また、伸縮式アンテナには長さを調整できるという利点があった。異なる周波数帯の電波を受信する際、アンテナの長さを調整することで最適な受信状態を得ることができたのである。しかし、この方式のアンテナを自動車に取り付けた場合、破損しやすい、見た目が悪い、空気抵抗が大きいなどの欠点があった。
<現代のシャークフィンアンテナの秘密>
現代の自動車に採用されているシャークフィンアンテナは、外観はコンパクトでありながら、内部に高度な技術が詰め込まれている。その最大の特徴は、内部に巻かれたコイル状のアンテナ素子である。
このコイル状の構造により、物理的な長さを短くしながらも、電気的には長いアンテナと同等の性能を実現している。これは「インダクタンス(誘導性)」という電気的な特性を利用したものである。アンテナ素子をコイル状に巻くことで、直線的な長さを必要とせずに、必要な電気長を確保することができるのである。
さらに、シャークフィンアンテナには複数のアンテナ素子が内蔵されている。FM/AMラジオ用、GPS用、地上波デジタル放送用、そして近年では各種通信用のアンテナなどもひとつのケース内に収められている。それぞれの用途に最適化された素子を効率よく配置することで、多様な周波数帯の電波を良好に受信することが可能となっている。
<進化し続けるアンテナ技術>
アンテナ技術の進化は現在も続いている。最新の技術では、フロントやリヤなどのガラスにアンテナ機能を組み込んだガラスアンテナの性能向上や、車体の金属部分自体をアンテナとして利用する方式なども実用化されている。とくに注目されているのが、「ダイバーシティアンテナ」システムである。過去にTVがついていることをアピールできた、あのアンテナだ。
これは、複数のアンテナを組み合わせ、それぞれの受信状態を常時監視しながら、もっとも良好な信号を選択して受信する方式である。建物や地形による電波の反射・干渉・遮断の影響を最小限に抑え、安定した受信品質を確保することができる。
また、近年の自動車にはさまざまな通信機能が搭載されており、アンテナの役割はますます重要になっている。コネクテッドカーやテレマティクスサービスの普及、さらに5G通信技術の発展に伴い、高速なデータ通信を可能にする高性能アンテナの開発も進められている。
かつての単純な棒状のアンテナから、現代の高度な技術を結集したシャークフィンアンテナまで、自動車のアンテナは時代とともに大きく進化してきた。外観はシンプルになった一方で、内部の技術はますます洗練され、複雑化している。自動車の進化とともに、アンテナ技術も日々進化を続けているのだ。