V8エンジン7基搭載の魔改造トラクターって地球の底まで耕す気か! 重いものを引っ張る競技「トラクタープリング」がこれぞアメリカだった (2/2ページ)

6000馬力!? ハイパーカーも真っ青のパワーウォーズ

 さて、アメリカでトラクターといえば、その広大な農地から巨大なマシンというのがデフォかと。とはいえ、トラクター・プリングでは、アメリカらしく細かなレギュレーション、クラスわけがなされており、当然ストックのトラクタークラスもあるのですが、醍醐味といえるのは、やっぱり何でもありのカスタムクラス。

 初期のころはストックエンジンの排気量アップくらいだったのが、トランスミッションの改造が可能となると一気にエンジンの複数化が流行。シボレーやらローデックといったハイパワー&高トルクエンジンを2基、3基と増やしていき、ひところはV8エンジンを7基搭載したモンスタートラクターまで登場していました。

 また、ヘリコプターのエンジンや大昔の飛行機で使われた星形エンジンすらレギュレーションで許されており、エントラントのなかにはフロリダのファンタジー・オブ・フライト博物館などからビンテージの軍用機エンジンを仕入れてくる強者もいるのだとか(現在、そうした行為は多くの博物館から拒否されています)。

 現在では使用燃料がメタノール、またはディーゼルに指定され、スーパーストックオープンと呼ばれるもっとも強力なエンジンを搭載したクラスでは6000馬力・5400Nmとけた違いなパワーとトルクを発揮。ディーゼルユニットのクラスでも5000馬力・8100Nmとハイパーカーどころの騒ぎではありません(笑)。もっとも、最大排気量も11リッターと、クルマというより貨物船みたいな数字ですけどね。

 で、モンスタートラクターでなにを引っ張るかというと、走れば走るほど負荷が増すという特性の大型重量級のそり。これは静止時の重量ですら2~4トン近くに設定されており、走行距離が伸びるのに合わせて重しが前方に移動して漸進的に負荷が増す(最大では29トン!)という仕組み。で、このそりを牽引してどれだけの距離を走れたかによって順位が決まるわけです。

 実際の競技はドラッグレース、いわゆるゼロヨンにも似ていて、単純にアクセル全開にすればいいってもんでもなさそうです。強大なトルクによって車体は大いに暴れるため、ドライバーは巧みなハンドリング、アクセラレーションが求められることは間違いないでしょう。

 また、ドラッグと違ってスピードはさほど高くはないものの、重たいものを引っ張っている「力感」のようなものがヒシヒシと伝わってくるため、ばんえい競馬同様に思わず「がんばれ!」の声がもれること請け合いです。

 最後に筆者の主観をお伝えすると、アメリカのモータースポーツ全般がどこか気さくでフレンドリーな雰囲気を醸している気がするのですが、トラクター・プリングは農産地を中心に普及しているためか、よりフレンドリーというか牧歌的な空気すら漂っていそう。エントリーの車名も「メイキン・ベーコン・スペシャル」とか「ミッション・インポッシブル」とか、なんとなく田舎っぽい(笑)。だが、そこがいい! 唯一無二のモータースポーツとして大いに気に入りました!


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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