いまは経験ではなくデジタルツールで稼ぐ時代
筆者は早朝午前7時前に都内某所で定点観測することがある。
ちょうど成田空港へ向かう鉄道始発駅が近いこともあり、車内に旅行カバンを満載したタクシーがよく筆者の前を通り過ぎていく。定点観測していると、同じタクシー運転士でも稼ぎを大きく左右するのは、自分の勤務する事業者がスマホアプリによるタクシー配車サービスに加盟しているか否かが大きく左右しているように思われる。
東京都内のビジネスホテルの多くでは、部屋に大手スマホアプリ配車サービスの入会案内が置いてある。かねがねタクシーをよく利用する人は、前述した新型コロナウイルス感染拡大とその後の供給不足のときに「スマホでタクシーを呼ぶ」というものが習慣づいてしまった。個々のサービスで異なるケースもあるが、迎車回送料金が徴収されても、確実にタクシーがきてくれる利便性のほうを優先しているようである。
「東京はそれまで街を流しているタクシーを拾う『流し営業』が主流でしたが、スマホアプリの普及により都内事業者は迎車回送料金収入が飛躍的に増えました。駅前での客待ちや無線配車をメインとしていた地域も含め、迎車回送料金の値上げとタクシー料金自体の値上げ(初乗り運賃で走行可能距離を縮めたりした)も行っており、運転士とともに事業者もまさにホクホクの状況が続いているそうです。なので、スマホアプリサービスに加盟している事業者と、そうではない事業者との格差は大きいとも聞いています(事情通)」。
もちろん、すべての時間帯ではないが、駅前にたくさんのタクシーが客待ちをしているという光景は全国津々浦々見かけることはなくなった。仮に駅前からお客を乗せ目的地まで行き、駅前に戻ろうとするとスマホアプリでの配車要請が入ってしまうのである。
スマホアプリがないころは、自分が普段流していない地域まで行ったら空車で帰るのが当たり前なのに、スマホアプリサービスに加盟していれば、どこにいても配車要請がかかることも多い。筆者も自宅からスマホアプリでタクシーを呼ぶと、「ここは普段流していない。たまたま通りかかったところ」という運転士に出会うこともよくある。
スマホアプリというと、若い人をついつい思い浮かべてしまうが、スマホアプリのタクシー配車では、お年寄りが通院のためスマホ操作をして呼ぶことはすでに当たり前になろうとしている。スマホアプリサービス加盟を機に、人件費や設備投資にお金のかかる電話による無線配車サービスを取りやめるところも多いことも影響している。
もちろん、デジタルツールに頼るだけでは収入アップはなかなか実現しない。時間があれば上客(長距離利用客)の配車要請が期待できる場所で休憩がてらタクシーを停める運転士もいると聞く。スマホアプリサービスは「打ち出の小づち」ではない。それまでの、稼ぐためには経験がものをいっていた時代」に比べると、「そんなにキャリアを積まなくても、デジタルツールをうまく活用すれば稼ぎやすくなっただけ」ということもできる(車内ディスプレイに検索された目的地までのルートが表示される)。
世間一般的にはデジタルツールに縁遠いと思われがちな高齢運転士も、迷うことなく機器を使いこなしているところをみるとベテラン運転士もその有効性を認めているようである。