RS2の生産でメルセデス・ベンツは激昂!?
同じころに、ピエヒから「困窮した親類を憐れむ」ような気もからRS2の開発が発注されたのですが、ポルシェはこれをメルセデス・ベンツに断りをいれずに承諾したことから、両社の間が険悪になったとされています。
メルセデス・ベンツとしては500Eを作ってるそばから、アウディの組み立てするなんて許さんというアピールでしょうが、本音としては「500E? もう十分作ったからいいでしょ」だったとも思われます。また、ピエヒはそのころのドイツ自動車メーカー首脳陣から嫌われていたという証言もあり、真相は闇のままかと。
さて、RS2の開発にあたっては、年季の入った(笑)アウディ製5気筒エンジンのチューンアップから始まりました。ちょい古エンジンらしく、ブロックは分厚く丈夫なものだったようで、バイザッハは迷わず「過給圧マシマシ」を狙ってタービンとインタークーラーを追加。各気筒5バルブという手の込んだヘッドまわりはほぼ手つかずで済んだようですが、カムプロフィールは300馬力オーバーを狙ったものへ変更。
当然、排気系も図太いパイプへとアップグレードされ、触媒を抜いた際の音はフルチューンの928みたいに獰猛な音を出していました。
そして、絞り出されたパワーは315馬力/6500rpm、410Nm/3000rpmであり、パフォーマンスは最高速度が262km/h、0-100km/hは5.4秒、0-200km/hは22.2秒と、仮想ライバルBMW M3を凌駕するにはちょうどいいレベル。
むろん、アウディが誇る伝家の宝刀、クアトロシステムが搭載されているのですが、セッティングについての詳細は発表されていません。ポルシェがチューニングしたという資料も見当たらないので、もしかするとストック、していても微細なものに終始している可能性があります。
とはいえ、245/40ZR17にサイズアップされたタイヤとのマッチングは「クアトロでスポーツドライビングを楽しむにはベスト」と称賛する専門家もいました。なお、ホイールはカレラカップと似ているデザインですが、サイズは微妙に違うためRS2専用となっています。
ところで、打倒M3を狙っていたはずなのに、RS2はワゴンタイプしか作られていません。当時、ボルボが850エステートでツーリングカーレース(BTCC)に参戦していたこともありましたから、ワゴンでもスポーツカー市場でウケるはず、との可能性を唱える史家もいます。また、RS2を組み立てていたラインが、959を手作りしていた貧弱な(笑)というか小規模なものだったために、セダンどころかアヴァントの量産すらキツかったとも思われます。
ともあれ、ピエヒは自分用にRS2セダンを作らせており(1台のみとも、4台作ったとも)社内での研究開発に用いたとされています。たしかに、その後アウディは完成度の高いRSモデルを連発していますから、少なからず役立ったに違いありません。
なお、500Eが(ポルシェのラインを使わなかったものを含めて)1万台ほど作られたのに対し、RS2は2891台(セダン含まず)という生産に終わっています。数でいえば、ポルシェが作ったモデルとしては相当レアですから、プレミアがつくことや博物館に収蔵されるべき1台であることは間違いありません。