高級感が演出されたコンパクトSUV
全長4m未満にも関わらずキャビンスペースには余裕があり、前述したスイフトデザイアのトランクがオマケ程度の積載スペースしか確保されていないことに比べれば、意外なほど広いラゲッジスペースが確保されていることにも驚かされた。
前席シートに座ってみると、とくにクッション部がふわっとしながらもボリュームもたっぷりして快適に座ることができた。後席もクーペSUV(しかもコンパクト)にありがちな前席ファースト的なものを感じないほどしっかり座ることができ、足もとにも余裕がある。
運転してみると加速時のエキゾーストやエンジン音も心地よく感じた。また、ドア開閉音もこのサイズではありがちな「パン」というような鉄板ライクな音とは異なる、まさに上級車らしい開閉音を聞くことができた。内装色もWR-Vが黒の単色なのに対し、黒とブラウン系のツートーンでコーディネートされており、見た目以上の高級感の演出にも余念がなかった。
フロンクスを見ていたら、かつてスズキがラインアップしていた軽自動車の「フロンテクーぺ」を思い出した。フロンクスほど実用性は高くなかったが、当時の軽自動車としてはスペシャルティムードにあふれた内外装となっており、フロンクスはどこかフロンテクーペのDNAを受け継いでいるように筆者は感じてしまった。
日本だけではなく、諸外国ではコンパクトクロスオーバーSUVといえばカジュアルイメージを強調しがちなのだが、フロンクスはこのサイズでもラグジュアリー路線を強調しているように見えるのはなぜか?
最近では「ダウンサイズ」というのが新車購入の世界でも目立っているが、それでも「高級車=大きい」というのが世界標準的な認識ともいえよう。しかし、インドの人たちは「高級車=大きい」という価値観はそれほど浸透していない。「欧米かぶれした富裕層が欧米や日本の大型高級車に乗りたがるようになった」といわれるほど、所得に余裕ができても、だからといってアップサイズして乗り換えるということはまだまだ一般的ではない。物理的な理由としてデリーなどの大都市では幹線道路は別として、かなり狭い路地が多いので、実用性を重んじてコンパクトカーを好んで乗っているというものもあるようだ。
かつて日本でも販売されていた「バレーノ」もコンセプトとしては、プレミアム・コンパクト・ハッチバックにカテゴライズされているものと筆者は考えている。日本では「高級車=大排気量=大型車」という基本イメージは変わらないが、少子高齢化に歯止めがきかないなか、現役社会人をリタイヤした世代のダウンサイズ乗り換えも一般化している。その受け皿の中心が軽自動車やコンパクトカーとなるのだが、軽自動車で高級といってもカスタム系モデルとなるし、コンパクトカーではカジュアルモデルばかりとなっている。
フロンクスに「トヨタ・ハリアーを感じる」といった話は発表会や試乗会場でもよく聞かれ、そこに触れているネットニュースもあったが、ハリアーは単にラグジュアリーなだけではなく、お値打ち感の高さでも人気が高まっている。
フロンクスは、全幅こそ5ナンバーサイズをオーバーしているとはいえ、全長4m未満のコンパクトサイズでここまでラグジュアリーイメージに溢れ、オプションは存在しないぐらい装備が充実して254.1万円からということに魅力を感じる人が多く、それが1万台という累計受注台数へとつながっているのだろう。