軽バン用とは思えないほど贅沢なEVアーキテクチャー
N-VAN e:では、バッテリーを搭載したぶんの重量増への対応として、フロントのブレーキディスクを大径化、あわせてタイヤサイズを13インチに拡大している。つまり、シャシー設計はエンジン車とは異なるものになっている。あえて指摘するまでもなく、モーターはレスポンスに優れている。そうしたパワー感にマッチしたハンドリングを実現していたのだ。
このあたり、担当エンジニア氏にうかがえば、「操作フィールにおけるABSの操作バランスを重視した開発をしています」という。ここでいう『ABS』とは『アクセル・ブレーキ・ステアリング』のこと。EVでは通常のメカブレーキのほかモーター発電による回生ブレーキも有効活用するのが航続距離を伸ばすポイントで、N-VAN e:では、エンジン車とは異なるバイワイヤ式のブレーキシステムとすることで、メカブレーキと回生ブレーキのバランスを取っているという。
具体的には、バッテリーが満充電に近い状態では回生ブレーキの発電をバッテリーが受け止められないため、制動力が弱くなってしまう回生失効という症状が発生するが、そのときにメカブレーキを強めに利かせることで、結果としてのブレーキ性能を安定させているということだ。ブレーキサイズを拡大しているのは、こうした使い方をしたときの容量を確保するためともいえる。
もっとも、今回の試乗では満充電時の回生失効のネガはわからなかったが、回生ブレーキの比率が低い状態では、若干だが制動性能が劣っているような印象も受けた。
また、N-VAN e:では水冷式バッテリーを採用している。夏場は冷却、冬場は暖めることでバッテリー性能を安定して発揮させる構造だ。さらに、充電性能については普通充電では最大6kW、急速充電は50kWに対応している。ほかの軽EVでは普通充電3kWとなっているケースがほとんどであり、明らかにホンダは先を見据えた性能を与えているように感じる。
このあたりの印象を伝えると同時に、「なぜここまで気合いを入れたEVアーキテクチャーを開発したのか」という正直な疑問を投げかけたところ、「ホンダにとってのEVリ・スタートだからです。できるだけのことをやろう、という思いで開発してきました」という回答を得ることができた。
N-VAN e:のシステムは軽商用EVのために生み出されたものではなく、今後はNシリーズのEV化に寄与することを意識しているというわけだ。実際、ホンダはN-ONEベースで次なる軽EVを考えているという。
N-VAN e:では、商用車という特性からノイズやバイブレーション対策がほとんどされていないようで、高速巡行ではパワートレイン由来の気になる部分はないものの、タイヤなどのロードノイズは盛大に入ってきていた。そのあたりも、プレミアムコンパクトなキャラクターをもつN-ONEであれば、問題なくクリアしてくるはず。
初物ながら完成度の高いN-VAN e:の走りを体感してしまうと、このEVアーキテクチャーがブラッシュアップしながらNシリーズに展開されたときの軽自動車離れした走り味は容易に想像できるし、想像以上の仕上がりとなることをおおいに期待したい。