シャシー剛性の高さもブレーキ性能に影響
911のブレーキを見ると、前輪ブレーキのディスクローターはほかのスポーツカーと同様に大きいものが装着されている。一方、後輪ブレーキはというと、前輪に勝るとも劣らないような大きなディスクローターが装着されているのが確認できる。
FRスポーツカーの多くは前輪こそ大きなディスクローターを装着されているが、後輪用は普通車並に小さい。これは減速時に後輪の接地性が低下し後輪ブレーキが機能しづらい状況になるため、バネ下重量の軽減を優先してディスクローターを小型化する選択をしているのである。
ブレーキディスクローターの大小はブレーキのキャパシティそのものを表している。ブレーキはクルマが走行している状態の運動エネルギーを摩擦で熱に変換することで減速させる装置だ。その熱交換器としての容量はディスクローターの大小と冷却性能で決まるのだ。ディスクローターの寸法が大きくなれば摩擦熱を受け入れる熱容量が大きくなり、より大きな運動エネルギーを吸収することができる。
911は前後に大きなディスクローターが備わるので、4輪ブレーキトータルでの熱容量は圧倒的に高い。熱容量は馬力に換算することができ、911のあるモデルでは、エンジン出力が500馬力前後であるのに対しブレーキのもつ減速馬力は2000馬力を超えるほどだ。エンジンが加速や最高速の維持をもたらす動力源とすれば、ブレーキは減速をもたらすエンジンといわれる所以だ。
ふたつ目は、その強力なブレーキシステムに応えることのできるシャシーをもっていること。RRの911は前後にバルクヘッド(隔壁)をもち、サイドシルも太く、極めて高いシャシー剛性が与えられている。それは捻りだけでなく、縦曲げや横曲げにも強く、大きな加速、減速、横Gに耐えることができる。
ブレーキング時には、とくに縦曲げ剛性の強さが求められるが、911のそれは極めて強く、前後ブレーキの発する強力な減速Gに対してしっかりと適合できるように設計されているのだ。加えて冷却も高効率に行われ、サーキット走行のように激しい減速を繰り返してもディスクローターの熱容量は常に確保されている。
このような理由から、911のブレーキ性能はほかのどのクルマよりも優れ「世界一」と評されているのである。