2025年のFormula Gymkhanaでも何かやってくれそう
だが「まだまだ練習は足りない。もっと速くならなければ」とも、みなが思っている。たとえば今年の大会で第1ドライバーを務めた阿部聖大さん(修士1年)だ。
ちなみに阿部さんは「僕が調べた限りでは、長岡技術科学大学の自動車部にだけは部室に2柱式の整備リフトがあったから」という理由だけで、この大学への入学(編入)と自動車部への入部を決めた人物だ。
「僕は本当にスピード狂で、これまでの部活も陸上とか水泳とか自転車など、速さを競うものばかりやっていました。その集大成的なものとしていま、自動車部にいるわけですが、地元のおじさまたちにいくら教わっても、そのとおりにできるわけではありません。ジムカーナの大会前の慣熟歩行(競技コースを覚えるために歩いてコースを確かめること)も、普通は文字どおり歩くものですが、僕の場合は“走る”に近いぐらいの早歩きで(笑)何周もします。しかしそれでも、おじさまたちと同じ走りができるわけではない。来年のFormula Gymkhanaまでに、もっともっと練習を重ねる必要がありますね」。
そして「Formula Gymkhana 2024全国決勝大会」で第2ドライバーを務めた今川晴幹さん(学部2年)も、口をそろえる。
「今年の大会では確かにウチが優勝しましたが、それはあくまでもトップを走っていた近畿大学さんが痛恨のペナルティを与えられたからであって、生のタイムでは我々が負けていました。2025年の大会では、他校さんのペナルティがなかったとしても勝てるぐらいにならないといけませんね。そのためには練習あるのみです。幸いにして長岡市は駐車場代が安いので、我々のような学生であっても『1人1台、またはそれ以上』のクルマを容易に維持できます。そういった地の利も活かしながら精進していきたいと思っています。現在、クルマ以外にはとくに好きなものもありませんし(笑)」。
以上のとおりの話を部員たちから聞くと、「子どものころからクルマが大好きで、それ以外のことは眼中になかった」的な人物像がイメージされるわけだが、必ずしもそうではない。たとえば「Formula Gymkhana 2024全国決勝大会」を第3ドライバーとして走りきり、結果として部を優勝に導いた小田英人さん(修士2年)は、長岡技術科学大学に入学するまでは「クルマにはとくに興味がなかった」という人物だ。
「高専時代はクルマを持っている友人から『ドライブに行こうよ』と誘われて、なんとなく一緒に行く──という程度でした。で、この学校に入学(編入)した際に、ただなんとなく自動車部なる部を覗いてみたら、なぜか部室でクルマのエンジンを降ろしている(笑)。それで『何なんだこの部は!』と思うと同時に『ちょっと手伝ってみる?』といわれて手伝ってみたら、意外と楽しかった……というのが入部のきっかけです。だから僕は、他のみんなと違って『生粋のカーマニア』みたいな感じではなかったんですね」。
しかし、入部後はめきめきと整備とドライビングの腕を上げた小田さんは、クルマのことを大好きにもなり、2024年のFormula Gymkhanaでは前述のとおり第3ドライバー、つまり「最終ヒートを走るドライバー」になった。
「めちゃめちゃ緊張したというか、プレッシャーは凄かったですよ。第1ヒートと第2ヒートを走ったドライバーは後輩なんですが、『さて、僕らはちゃんと結果を出しましたけど、小田サンはどうかなぁ……?』なんていって煽ってきましたし(笑)。
でも、そんなプレッシャーはそのうちワクワクに変わりましたね。『……ここでオレがいい走りをしたら、みんなはどんな顔で喜んでくれるだろうか?』みたいな感じで。で、結果としてやりきることができました。もちろん課題というか、できなかったことも多かったのですが、自分のなかでは『やりきった! 期待に応えることができた!』という感覚はあります。
……来年春にはエンジニアとして就職することが決まっていますが、社会人になってからもジムカーナは続けたいですし、まだわかりませんが、ダートラやラリーにも挑戦してみるかもしれません」
全部で35名ほどいる長岡技術科学大学自動車部部員のうち、我々は5人に話を聞いたに過ぎない。だが彼らにインタビューすると同時に、多数集まった部員同士の会話などを盗み聞き(?)した限りにおいては、長岡技術科学大学自動車部の強さの秘密は「理系の学問に秀でた人にしばしば見られる、ある種の頑固さというかこだわりの強さ」と、「それと相反する“素直な明るさ”のようなもの」が、部全体において絶妙にブレンドされていること。そしてそこに「地元新潟の優しい猛者のおじさんたち」というスパイス加わったこと──なのではないかと思えた。
この見立てが合っているかどうかはわからない。だが2025年のFormula Gymkhanaにおいても長岡技術科学大学自動車部はきっと、優勝争いをする一群に入ってくるだろう。楽しみにしながら、経過を見届けたい。