なんだかんだで人同士で直接やり取りする方がスムース
アメリカではすでに80年代後半あたりでも訪問販売を違法とする場所がほとんどであったと聞く。犯罪が多発し治安が悪くなるなか、まず自宅への訪問などが禁止され、さらに試乗時にセールスマンが同乗していると、途中で殺害されて新車が奪われる可能性が高いと試乗時のセールスマン同乗も行わなくなったと聞く(盗難防止にはほかの対策がとられているようだ)。日本も他国に比べればまだ治安はいいようだが、治安悪化が目立っていることには変わりないので、今後はさらに新車の売り方は限定されていくことになるだろう。
つまり、フラッと訪店してアンケートに記入してもらったとしても、その後はそのお客が再び連絡してきたり、店を訪れることがない限りは何もできないというのが現状ともいえる。そのなかでメインの売り方が、点検・整備などで店を訪れた、すでに納車している管理顧客への乗り換え促進である。
さらに、訪店した管理顧客から紹介された新車購入を検討している管理顧客の知人へのアプローチである。トヨタがコロナ禍以降圧倒的な勢いでコロナ禍前を上まわるような勢いで新車販売を続けトップシェアを維持し、「トヨタひとり勝ち」ともいわれるのは、前述した売り方を得意としているからである。
管理顧客とのかかわり方、つまり商売のスタイルは個々のセールスマンで異なるし、さらに個々の管理顧客で距離の取り方なども変わってくるので千差万別ともいえるが、やはり扱い車種がワイドラインアップであればあるほど有利となるのは間違いないだろう。その意味でも軽自動車からクラウンシリーズやアルファード&ヴェルファイアまでもっているトヨタの強みは大きい。
トヨタもダイハツ製軽自動車の一部を「ピクシス」としてOEM(相手先ブランド供給)モデルを販売しているが、ピクシス以外のダイハツブランド軽自動車の委託販売も行っている。軽自動車は新車購入では流動性が高い(ブランドやモデルにはこだわらない)傾向があり、たとえばファーストカーでトヨタ車に乗っていて、仮にトヨタで軽自動車がまったく買うことが出来なければ、簡単に他メーカーへ流れてしまうのだが、トヨタブランドの軽自動車やダイハツ軽自動車が買えるとなれば、その範囲で増車を検討してもらえることも多いのである。
軽自動車では車種別ではホンダN-BOXが圧倒的人気でトップを独占している。こうなると指名買いとなり、ホンダ系ディーラーで新規に購入する人も多いが、それはそれで「ほしい人に売った」となるだけともいえる。歴代N-BOXの完成度が高かったこともあり、N-BOXからN-BOXへ継続的に乗り換える人も目立つようで、それがN-BOXの強みともいえるが、ホンダのほかの軽自動車の販売がパッとしないところを見ると、表現としては買い手市場となっているようである。
一方ブランド別では、ダイハツとスズキがいつも激しく販売台数を競っている。N-BOXがメーカー系ディーラーでの販売が主体なのに対し、スズキやダイハツは業販(新車販売協力している街の整備工場や中古車専業店)比率が高いことが特徴的。長年地元で営業している整備工場などでは、そこの経営者やスタッフを頼って新車購入を検討する人も集まりやすい。
そこで「スズキのこれがおすすめだ」などとアドバイスをもらい、そこを介して軽自動車の新車を購入する比率が高いのである。そして業販店の多くは、スズキもダイハツも取り扱っていることが多く、業販店の差配次第で販売台数が変わってくるともいわれている。一般的にはスズキが業販では強みを見せているといわれている。
つまり令和の新車販売であっても、昭和臭の強い売り方が幅を利かせているのである。「そんなの世代交代が進めば変わっていく」との意見もあるだろうが、日本よりはるかに早くカウンターセールス(売り歩くことはせずに店舗でお客が来るのを待つ)に絞っているアメリカでも、「よく売るセールスマン」ほど、自分の管理顧客への乗り換え促進のほか、ネットワークを駆使して新車をほしがっている人を紹介してもらい、その人への販売促進活動を中心にしていると聞いたことがある。
この傾向はより顧客との信頼関係を構築しないと(マネーロンダリングの危険がないかなどおもにリスク面の克服)なかなか売ることのできない高級車では、一見客への販売はかなり慎重に対応するセールスマンも多いようなので(積極的に売りたくない)、あえて新規の購入を予定している人は知人の紹介を頼ってセールスマンと接触することも多いようである。
新車購入はけっして安い買い物ではない。そして日本も残念ながら犯罪発生の面でも国際化が急速に進んでいる。そのなかで効率的に新車購入を進めようとするならば、瞬間的には「コスパもタイパも悪い」ように見える、人間関係を意識しながらひざを突き合わせた商談をしたほうが、結果的には時短につながることもにもなり、効果を発揮するというのは当分続きそうである。