この記事をまとめると
■最近の新車ディーラーでは事前予約をしないと対応待ちになるケースが多い
■オンライン商談もコロナ禍以降普及せず限定的な利用にとどまっている
■令和の新車販売であっても昭和臭の強い売り方がまだ根強く残っている
新車の売り方がガラリと変わった
情報収集のため、新車購入検討客を装って新車ディーラーを訪れることが多い。そこで店舗スタッフが開口一番で決めセリフのように聞いてくるのが、「当店スタッフとのお約束はありますか?」である。労働集約型産業とも表現できる新車販売の現場だが、セールスマンだけではなく、メカニックも含め深刻な働き手不足となっている。筆者は稼ぎ時の週末はお邪魔しては悪いと思い平日に訪れることにしているので、アポなし訪問してもたいてい相手をしてもらえるセールスマンがいるが、稼ぎ時の週末ではあらかじめ商談予約をしておかないと、待ちぼうけを食らうこともあるようだ。
実際筆者は「初売りフェア」でファミリーレストランの混雑時間帯のように「ウエイティングリスト」に名を連ねて、空きセールスマンがくるのを待っていたこともある。
売る側の事情のほかに、買う側の生活環境の変化もあるだろう。飲食店で食事をする時は以前よりはるかに増して事前予約するのが当たり前となってきている。グルメサイトの普及もあるし、そのようなところを利用すればさまざまな特典を得ることもできる。効率的に新車購入商談を進めたいとなれば、事前予約制度は確かに有効である。
ただ、筆者は「事前予約がデファクト化しているのならば」と、あえてアポなしで訪れたときの各店舗の反応も確認している。「応対できるものがいない」といった門前払いはほとんどなく、本来は管理業務に専念している店長が臨時で応対してくれることがよくある。
本来は「タイパ(タイムパフォーマンス)」のいい新車購入の実現のために日本だけではなくアメリカでも積極的に採用されたのが「オンライン商談」なのだが、日本では新型コロナウイルス感染拡大中に感染予防の観点でも積極的に採用されたが、感染が落ち着くとすっかり忘れられた存在となってしまった。
アメリカではコロナ禍直前ごろから採り入れられるようになり、日本と異なり納車まで含めて店舗を訪れずに購入することも可能となっていた。「日本より早い段階でEC(電子商取引)による商品購入が普及していたので、ライフスタイルとして『買い物=EC』という人には受け入れられたようですが、アメリカでさえその普及は限定的となっているようです」とは事情通。オンライン商談で新車を買うために、地元開催のオートショーを訪れ、展示車を触ったり、試乗を行ったりすることも多かったようだが、それも二度手間と考える人も多かったようだ。
新型コロナウイルス感染拡大が落ち着き、2022年から再び毎年南カリフォルニアの販売現場を定点観測している。2022年こそオートモール(新車ディーラーが集中して出店している地域)を訪れる人は目立って少なく見えたが、2023年、2024年と年を追うごとにオートモールも活況を取り戻しており、2024年に訪れると積極的に公道試乗している人が目立っていた。
コロナ禍を経てオンライン商談など「新しい売り方」も登場しているが、日米で共通しているのは、「馴染み客を増やし、継続的に乗り換えてもらいながら、ほかのお客を紹介してもらう」という、ある意味伝統的な売り方がメインとなっている。
日本の新車ディーラーでは、「訪問アンケート」などと称して、氏名、住所、連絡先(電話番号やメールアドレスなど)といった個人情報をセールスマンが得ようとする(いまは手書き記載のほか、タブレット入力などもある)。昭和のころには、このアンケート記載の情報をもとに直接お客の自宅をアポなしで訪れたり、セールスマンが直接電話して売り込むのが当たり前であった。
「新しいお客様ならば、個人情報を聞かないで帰すと上司によく怒られました」とは当時を振り返る新車セールスマンOB。その後個人情報保護法が制定され、訪問アンケートに記載してもらった個人情報をもとに直接売り込むことはできなくなった。得られた個人情報は試乗会などのイベント告知や購入特典の案内といったもののDM(ダイレクトメール)や、ネットニュースの配信について活用することのみ原則許されることになっている。
しかし、個人情報保護法施行後も実際に筆者も直接自宅にセールスマンがくるといったことも経験しているが、「個人情報保護法に抵触しないのか」といわれるリスクもあるので、セールスマン個人が売り込みに使うということは原則あり得ないようである。
本稿執筆時点では、首都圏において「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」による、高齢世帯への強盗傷害事件が広域に連続発生している。このようになると、販売促進のためであってもセールスマンが自宅をアポなしで訪れたり、販売促進のために電話をかけること(犯罪組織の下調べと思われる)は、販売促進とは逆の効果を招くことになるだろう。