クルマだけど「走らないとき」の価値が高い! シャープの電気自動車が自動車メーカーとはひと味違う中身だった (2/2ページ)

クルマというより「部屋」なLDK+が示す自動車の未来

非常に面白いのは、シャープ「LDK+」では、従来の新型車登場時にありがちな、クルマとしての性能アピールがほとんどない点だ。ワンボックスフォルムの車体は、大部分がリヤスペースというパッケージングで、後方に65インチの大画面モニターを配置するなど、ほとんど部屋としてデザインされている。

車名がLDK+となっているのは駐車場に置いたクルマを「リビングルームを拡張」したプライベート空間として利用できることを意味しているといえる。つまり、駐車中のバリューを狙ったコンセプトというわけだ。

ほかにも大規模言語モデルのAIによるサービス、蓄電池や太陽光発電と連携したエネルギーマネージメントなど、「止まっている時間」に役立つ機能にフォーカスしているのだ。

実際、公開されている透視図をみても、運転席は非常に狭く、ハンドルやペダルなどは省かれている。バッテリー搭載量、航続距離などの情報もなく、家電メーカーの知見を活かしたEVの新しい価値の提案を示しているのがコンセプトカー「LDK+」といえるだろう。

ただし、非現実的なコンセプトカーと捉えてしまうことはできない。

これまたよく知られていることだが、フォックスコンといえばApple iPhoneの製造を受託している企業として知られ、一時はアップルカーの製造も請け負うのでは? といわれていた。アップルカーについてはプロジェクトが凍結されたということもあり、不明な点も少なくないが、完全自動運転を最終目標としていたことは間違いない。

もし、フォックスコンのEVプラットフォームが完全自動運転を前提としているのであれば、「LDK+」の運転席まわりの表現が非常に簡素かつスペースが狭くなっていることも納得できる。現時点では運転席が必要かもしれないが、ドライバー不要の自動運転テクノロジーが実現、法整備や社会的受容性が満たされてこそ、移動する部屋というコンセプトが活きてくるはずだ。

運転行為が不要になったとき、旧来の自動車メーカーがどんな価値を提供できるかは不明であるが、少なくとも「ファン・トゥ・ドライブ」的な価値観は過去のものとなるだろう。そして、移動する部屋としての価値を高めるノウハウは、家電メーカーやインテリアに強い企業に一日の長があるのも事実。

シャープのコンセプトカー「LDK+」自体は、けっして現実味を帯びているものではないが、自動車産業の大変革を予感させる1台であることもまた事実だ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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