EVのモーター寿命は未知数だ
実際には、電圧を変化させることで回転数のコンロールができるDCモーターがEVで使われた例も多くあったが、DCモーターよりサイズを小さくでき、また高性能化が可能なことからACモーターがEVの動力源として使われるようになってきた。
ACモーターは、電気の流れの向きが変わる速度(周波数)によって回転数が一定になるという特性があり、本来は車速が変化するクルマの動力源としては不適格だったが、技術の進歩により、直流から交流に電源を変換するインバーターが高性能化を果たし、交流の周波数を自在に変えられるようになった。これが直因となり、ACモーターがEVの動力源として使われるようになってきた、というわけだ。
では、モーターが劣化することはあるのか? ということになるが、EVのモーターは使われてからまだ日も浅く、考える上で産業用モーターを参考にするしかないのだが、やはり性能低下は確実にあるようだ。もっとも、回転力を作り出す磁力に関する部分の劣化ではなく、軸受け部分のグリース寿命、機械的寿命が主体になっている。とくにグリース寿命は多く、モーターの種類によっても異なるのだが、寿命の目安は3万時間から5万時間と見積もられている。ただ、これはあくまで産業用で、EV用がどの程度なのかは定かでない。また、グリース寿命のカギを握るのは温度で、温度上昇を抑えることで寿命が延びるというのが実態だ。
一方、ACモーターをEVの動力源として使うことを可能にしたインバーターの寿命が気になるところで、これも産業用だと10年程度と見られている。動力用バッテリーは、ほぼリチウムイオン(NMCとLFPの2タイプ)方式で、EVメーカーによって違いはあるものの、8年または16万km、あるいは8年または24万kmという例が多く、また劣化の流れもいきなりダメになるのではなく、徐々に充電機能が低下する特徴があり、使用方法や充電回数によっても劣化の程度に違いが生じてくる。
これまでの内燃機関搭載車とパワーユニットの性質が根本的に異なるため、性能の維持度合いや劣化については、実際に経験しなければわからない要素も多々含まれ、現在はその最初の段階に踏み込んだばかりという状態だ。ただ、電気モーターは産業用などで長く使われてきた実績があり、大きな不安材料はほとんどないといえそうである。