奇数は回転バランス面で不利になる
ところで、これまで採用されてきたシリンダー数で、奇数シリンダーがほとんどないことにお気付きだろうか。単気筒は、かつて小排気量、ふたり乗りのコミューター的な小型車両で使われた程度で、現代では自動車用エンジンとして考慮されていない。
直列3気筒は、かつて軽自動車で2サイクル3気筒が使われたが、近年は1500〜1600ccクラスまでを受けもつエンジンとして、4サイクル3気筒が直列4気筒に取って代わる状況にある。当然ながら、直列4気筒より軽量でコンパクトな仕上がりとなる。
回転バランス面では、慣性力は1次、2次ともバランスするが、 慣性偶力が発生するため、キャンセル用にバランスシャフトやカウンターウエイトが必要となる。直列4気筒が2次慣性力の対策が必要なことを考えれば、構造次第で3気筒の実用性は十分高いといえる。
直列5気筒は、1次、2次慣性力ともバランスするが、大きな慣性偶力が発生するため、これのキャンセルに1次偶力バランスシャフトを用いる例もあった。また、偶力が発生する傾向は、直列5気筒を2基つないだV10(理論的にはバンク角72度、生産車ではバンク角90度も存在)も同じで、生産車では慣性偶力対策がネックとなり、ほとんど実用化されることはなかった。
一方、量産車のエンジンとして7気筒、9気筒が存在しないのは、まずサイズと重量の問題があるからだ。7気筒、9気筒のV型レイアウトは構造上あり得ない。左右バンクでシリンダー数が異なるため、回転バランスがきわめて悪くなる。直列レイアウトは、クランクシャフトが長く伸びることでエンジン全長が延び、7気筒は適正なクランク軸位相がとれない。また、9気筒にいたってはエンジン全長が長大になると同時に、クランクシャフト、シリンダーブロックの重量が増え、車両への搭載が極めて困難な状況となる。自動車用として実用例がないのはこのためだ。
余談だが、航空機用の星型エンジンは、奇数シリンダー数が定石で、逆に偶数シリンダーの例はない。点火タイミングと回転バランスによるものだ。
自動車用(乗用車クラス)の直列レイアウトとして最多のシリンダー数は8気筒だった。メルセデス・ベンツ300SLR(W196S)が搭載したM196型3リッターエンジンで直列4気筒を縦に2基つなぐ構造だった。
なお、このクルマは、市販されたガルウイングドアをもつ300SL(W198)とはまったく別物の純レーシングカーである。