この記事をまとめると
■使われていないときのクレーン車はアームを上げた状態で駐車されていることが多い
■クレーン車がアームをあげて駐車する一番の理由は盗難防止だ
■盗難防止以外にもスペースの効率化とコマーシャル効果も期待されている
理由は「盗難防止」と「駐車場のスペースの有効活用」
重機を扱う会社の車両置場や工事現場を通りかかると、大型のクレーン車がアームを上げて駐車しているのを見ることがあるだろう。しかも、駐車しているすべての車両がアームを上げている。その姿はまるで対空砲の放列か、枝葉のない樹木の並ぶ林のようだ。なぜ、クレーンのアームをわざわざ上げて駐車するのか? それには大きくふたつの理由があるという。
ひとつめは「盗難防止」。車両の盗難というとハイエースなどの商用車やランクルなどの乗用車を想像しがちだが、じつは重機も窃盗犯にとっては格好のターゲットになっているのだ。その理由は、転売の利益が高いから。窃盗犯は重機も海外へ転売する。大型ともなれば車両価格が数千万円から数億円になる重機は、犯罪者にとってはまさにお宝というわけだ。高性能で故障しにくい日本製の重機は海外、とくに途上国では新車、中古車問わず大人気。クレーンのアームなど車体に書かれた日本語の社名を消さずに現場で稼働させている車両も多い。海外で活躍する日本製の重機のなかには、きっと盗難車も多く含まれているのだろう。
そして、クレーンのアームを上げて駐車しておけば、窃盗犯はその車両を動かすことができたとしても、アームを上げたままではそれを持ち出して走行することはできない。また、そのアームを下げるには数分かかるため、窃盗犯はアームを上げたクレーンを盗むのは躊躇し、諦めるわけだ。実際、アームを降ろしてクレーン車を駐車していた業者が盗難被害にあい、それ以降アームを上げて駐車するようにしたら、盗難はなくなったというケースもある。
クレーン付きトラック(通称「ユニック車」)も駐車時にはアームを上げていることが多い。用心深いオーナーともなると、アウトリガー(クレーン使用時に車両の転倒を防止する支柱)を出して地面に固定させている。また、ダンプトラックも駐車時にはボディ(荷台)を上げている(業界では「ダンプアップ」という)ことが多い。これもきっと盗難防止の対策のひとつなのだろう。トラックの盗難もダンプに限らず、深刻な問題になっている。重機と同様、盗まれた車両は海外に転売されてしまうのだ。
もうひとつの理由は「駐車場のスペースの有効活用」。クレーン車の多くは、ベースとなるトラックやキャタピラ装備の台車などの車両よりアームのほうが長く、駐車時に車両からアームがはみ出る状態になるものが多い。限られたスペースにクレーン車を駐車するには、アームを上げたほうが効率的。そのぶん、より多くの車両を駐車できるというわけだ。
また、アームにペイントされている社名が、看板代わりになる効果もあるという。天高く伸びるクレーンのアームは、それだけでも目立つもの。社名を描いたアームが何本も並んでいれば、それは効果的な会社の宣伝になるはずだ。
クレーンのアームを上げた駐車は、それを稼働させている会社にとって、盗難防止、スペース活用、コマーシャルと多くの効果的なメリットがあるというわけだ。