この記事をまとめると
■ディーゼルエンジンには天ぷら油(食用油)が使えるとの噂がある
■熱エネルギー的には食用油(植物油)でも化石燃料(軽油)の代役が果たせる
■理論上は使えても食用油は軽油に比べてコストパフォーマンスが悪すぎる
ディーゼルエンジンの仕組みとは
「ディーゼルエンジンで軽油がなかった場合、緊急措置として天ぷら油を代用することができるのか?」というテーマを編集部から投げかけられた。軽油に代えて天ぷら油の使用が可能か否か、という話である。少々現実味に欠ける話かもしれないが、実際のところはどうなのだろうか?
現在、自動車用として使われる化石(石油)燃料は、大別してガソリンと軽油の2種類がある。燃焼に関する両機関の大きな違いは、ガソリン機関がスパークプラグによる強制着火方式を採ることに対し、ディーゼル機関はシリンダー内で圧縮した高温・高圧の空気に軽油を噴射し、圧縮熱によって燃焼(着火)を行う圧縮着火方式を採る点にある。
ガソリンエンジンとは異なる燃焼方式のディーゼルエンジンで、天ぷら油の代用が可能か否かを探る前に、まずディーゼルエンジンの基本原理についておさらいしておこう。
自動車用エンジンとしてのディーゼル機関は、大型車(トラック、バス)や重機を中心に長らく使われてきたが、燃費のよさからヨーロッパでは乗用車用エンジンとしても好まれて使われてきた歴史がある。この自動車用ディーゼルエンジンの足跡を振り返ると、大きな進化を迎えた時期があった。コモンレール方式の登場である。
ディーゼルエンジンの基本動作は、シリンダー内に吸引した空気を高圧縮することにより温度を高め、そこに軽油を噴射して自然着火(圧縮熱着火)させる点にあるが、高圧下での燃料噴射となるため、噴射圧力は高め、さらに軽油の特性を考慮するとより細かな粒子状としなければならず、噴射システムの作動原理やインジェクターの構造/ノズル形状などが重要なカギとなってくる。
こうした基本要素をもつディーゼルエンジンは、燃料供給システムとして、かつては機械式燃料噴射装置が使われていた。列型、分配型と呼ばれる方式だが、エンジン回転を動力として燃料ポンプを駆動するため(エンジン回転依存型)、低速回転域では噴射圧力を高くとれないという側面(弱点?)があった。いい換えれば、エンジン回転域によってポンプの噴射圧力が変化し安定した(理想的な)噴霧状態を保てない特性をもっていた。
そんな機械式燃料噴射装置がもつ弱点を払拭するために考え出された燃料噴射の方式が、いわゆる電子制御式燃料噴射装置のコモンレール方式だ。エンジンに供給する軽油をあらかじめ電気式の高圧ポンプで加圧。この燃料ポンプから各シリンダーに設けられたインジェクターまでの燃料通路(配管)をレールといい、全シリンダー共通(コモン)の燃料通路が使われることからコモンレールと呼ばれている。このコモンレール部は、噴射に備えて加圧された燃料を一時的に溜めておく働きがあり、連続的な高圧噴射を可能にしている。
このコモンレール方式、電気/電子によってシステムが構築されるため、従来の機械式では不可能だった燃料噴射(=燃焼状態)ができるようになった。簡単にいえば、軽油はガソリンと異なり、燃料の粘度が高く、また揮発性もないため、シリンダー内で微粒子化しにくい特徴がある。
要するに、安定した燃焼状態が作りにくいということだが、コモンレール方式の高圧噴射により、燃料の微粒子化が可能となり、また電子制御式(ソレノイド式インジェクター/ピエゾ素子式インジェクター)を採用することで1回の圧縮行程間に複数回(5〜9回)に分けた噴射が可能となった。この結果、機械燃料噴射に比べて燃焼効率が格段に引き上げられ、高出力化、低公害化が可能となったものだ。