この記事をまとめると
■現代のクルマにはコストダウンの波が押し寄せてきている
■好景気に沸いた1980年代のドイツ車は過剰なまでの高品質車が多かった
■数多くのドイツ車に乗った筆者がその品質を語る
ドイツが生んだ歴史に残る高品質なクルマたち
最近のクルマはコストとの戦いの末に生まれてくる側面がある。たとえば質実剛健なドイツ車の代表格、世界のコンパクトカーのベンチマークであり続けるVWゴルフにしても、現行のVIII世代では、VII世代にあったボンネットのダンパーが省かれるなど、目に見える部分の一部にもコストダウンの波が押し寄せているようだ。
そう思えるのは、過去、1980年代のゴルフII、E30 BMW 3シリーズ、W124メルセデス・ベンツ 300E、そして近年ではゴルフVIIヴァリアントなどを所有し、いまは2020年型ゴルフVII (7.5)最終モデルのヴァリアント・マイスターに乗っている筆者だけではないかもしれない。
1970年代のオイルショックから世界の景気に一気に光が差し込んだ1980年代。とくにドイツ車は「オーバークオリティ」を詰め込んだクルマを続々と登場させている。VWゴルフII(1983~)、メルセデス・ベンツ W201 190E(1985~)、W124 Eクラス(1985~)、E30 BMW3シリーズ(1982~)などが思い浮かぶ。
なかでもメルセデス・ベンツ 190E、そしてメルセデス・ベンツ Eクラスは、「最善か無か」のスローガンの時代に、コスト度外視、メーカーの崇高な理念を優先して作られた、歴史に残るといっていい超絶クオリティな名車なのである。
そのオーバークオリティは、ドアを開閉しただけでもわかる。ドスッと閉まる堅牢感、建て付け、開閉機構の精密さは当時のドイツ車ならではで(ポルシェなども含む)、オーナーのドイツ車を所有する満足度を、メルセデス・ベンツ 300Eを所有していた筆者を含め、大いに高めてくれたのだった。そして、世界最高水準のボディ剛性、しっかりとした足まわり、インテリアのクオリティの高さにも目を見張らされたものだ。
「ビジネスライクなインテリア」ともいわれたものだが、華美な装飾こそないものの、樹脂などの品質が極めて高く、経年劣化も極めて少なかった。シートにしても、ハンドメイド工程を取り入れ、体重の軽いユーザーには張りが強すぎると感じさせたかも知れないが、長年乗り続けてもへたりなど最小限。コストのかかったシートが奢られていたのである。
190Eもそうしたオーバークオリティのメルセデス・ベンツの1台であり、基本部分がしっかりしすぎているからこそ、190E 2.3、6気筒エンジン搭載の190E 2.6、さらにコスワースがチューニングしたハイパフォーマンスな190E 2.3-16といったスペシャルモデルがコンパクトなサイズにして成立したといっていい。
それはW124のEクラスも同様で、ノーマルモデルの、微に入り細に入りのオーバークオリティは当然として、ポルシェがチューニングし、ポルシェの5リッターV8エンジンを積む500E(1991~1995)が誕生したのも、W124 Eクラスの基本設計に高出力V8エンジンを積む余裕があったからにほかならない。
当時の国産ミドルサイズセダンにポルシェのV8エンジンを無理やり積んだとしたら、シャシーとエンジンのバランスなど取れなかったと思える。