日本のやり方が結果的に正解か
以前、事情通から「タイにおけるBEV販売も新たなフェーズに入ろうとしています。それは次もBEV、しかも中国系メーカー車に乗り換えるのか? ということです」という話を聞いたことがある。当時も再販価値への懸念などもあったが、前述したような状況では、「再び……」ということにはなかなか起こりそうもなく、アット3あたりでは、同予算でトヨタ・カローラクロスやホンダHR-V(ヴェゼル)のHEV(ハイブリッド車)を買うこともできるので、日系HEVへ流れる(回帰?)という動きも顕在化してくるかもしれない。
ただし、タイ市場に参入している中国メーカーのなかには、MGやGWMのようにHEVなどのICE車も「保険」とまではいかないが、ラインアップしているブランドもある。
少なくともバンコク首都圏では今後も苦戦が予想されるので、視野を拡大した販売促進というものがより重要視されてくるかもしれない。
タイにおいて、中国メーカー製BEVは当初(2022年から2023年)は中国から完成車を輸入して販売していたが、その際「EV3.0」という政府のBEV優遇策により多額の補助金が付与されたかわりに、2024年以降はタイでの現地生産が必要とされた。2024年に工場稼働開始した場合は、輸入販売した台数と同数のBEVをタイ国内で製造する必要があった。
「完成車を輸入販売していたころに政府から受けていた恩恵を、現地工場での生産台数で恩返しする約束になっていたといえます。完成車を輸入販売していたころに、需要の先食いをしてしまった印象を受けます。さらに、ローンでの購入がメインなこともあり、再販価値をより意識するタイにおいて、結果的にBYDまで巻き込んでの乱売傾向が顕著となってしまい、今後は中国車全体のブランドイメージを大きく下げることになるはずです。タイ生産車をタイ国外に輸出するとしても、タイ通貨のバーツが強すぎます。中国メーカーの未来には『いばらの道』が待ち構えているといっていいでしょう。そしていまの状況は、あらかじめ多方面から予測されていたことでもあるのです」(事情通)。
いまのタイが日本の未来なのかといえばそれは極論といえるだろう。まず、タイにはないが日本には自国自動車メーカーというものが多数存在し、国の重要基幹産業となっている。そして今後は、不透明だが、現状ではBEVの日本国内普及に関して諸外国のように政治は強く関与していない。タイをはじめ欧州などでBEVはいままでのような「我が世の春」から一転して厳しい状況に置かれている。それは政治が深く普及に関与してしまった結果ともいえる。
つまり、政府の強い関与により普及スピードを不用意に加速させてしまうのである。日本は、その意味では「民間丸投げ」とは語弊もあるが、「補助金は付けるけどあとはお願いね」といった、その普及は新車販売市場に任せている。
いろいろな面で「日本はBEV普及で遅れを取っている」とはいわれるが、いまの日本の状況が本来のBEVの普及スピードなのかもしれない。もちろん日本メーカーの燃費や環境性能の極めて高いICE(内燃機関)の存在や、性能の高い日系メーカーHEVの著しい普及なども他国とは状況を大きく変えているだろう。
「BEVはあくまで選択肢のひとつ」。
これを貫けばタイのような混乱は、まず日本では想定する必要はないといえるのではないだろうか。