ボルボにシューティングブレークが誕生
そして1972年、P1800シリーズをワゴン化したモデル、1800ESが発売されました。車名のEは先代の1800Eから受け継ぎ、SはスポーツでなくスウェーデンのSとされています(1800Sも同様の由来)。イギリス車が好きな方なら、ボルボの手法はリライアント・シミターに似ていること、思いつくかもしれません。
ルーフをテールエンドまで伸ばすのはワゴンの文法どおりですが、リヤフードはガラス1枚のみという画期的なもの。当初、ESのデザインはイタリア人デザイナーのセルジオ・コッジョーラとフルアのコンペとなったものの、いずれのプロポーザルも「未来的すぎる」と却下。ちなみに、フルアがデザインした「ラケーテン(ロケット)」はボルボの博物館に収蔵されています。で、結局はアマゾンなどをデザインした社内のデザイナー、ヤン・ウィルスガードによるアイディアを採用というまわりくどい結果に(笑)。
また、エンジンやシャシーについても贅沢なことに1800Eとは別のセッティングが施されています。ヘッドガスケットを薄くして圧縮比を下げ、125馬力までダウンさせたものの、トルクフルで扱いやすいエンジンになったとか、ボルグワーナー製3速ATが選べるようになったとか、商品力は確実に向上していたかと。
しかしながら、1974年の導入が決まっていたアメリカの安全基準や排ガス基準に合致させるための投資をボルボはあきらめました。すでに200シリーズのローンチが決定しており、北米むけの主力はこちらに任されていたのです。また、1800シリーズはこのESのほかにコンバーチブルモデルも企画されていたようですが、これもまた上記の理由から断念せざるを得ず、代わりといっては変ですが、リソースは262Cクーペへとまわされたというわけです。
たった2年の生産ながら1800ESは8077台が出荷され、いまなおマニアの手によって元気に路上を走っているものが少なくないようです。また、ボルボ社内でも人気があるようで、ガラスハッチが480やC30に踏襲されたのはご存じのとおりです。
人気の証しとなるのか、スウェーデンではフィスクビレン(フィッシュ・バン、要するに魚屋さんのバン)なるあだ名がつき、ドイツではシュニーヴィッチェンザルク(白雪姫の棺桶)などと呼ばれ大いに親しまれたとのこと。
2ドアクーペもなかなかのスタイルですが、1800ESのヘンテコながらも強烈な存在感は、やはり当時のボルボならではの魅力といえるのではないでしょうか。